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夢のまとめ  作者: 七色
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 「見て見て、すっごいでかい海月いた、今!捕まえてきて、斑ちゃん!」

 「斑ちゃん呼ばないで下さい!そんなに身を乗り出さないで草詩さん、落ちます!!」

 「ああ、草詩殿、羨ましい妬ましい!斑殿にそんなに熱烈的に抱きしめられて!!」


 船旅は非常に賑やか、というかやかましいくらいだった。五月蠅い、イライラしながら遊馬が甲板で火を探していると、斑の父親がそっと小さな火を出してくれた。


 「どうぞ」

 「ああ、どうも」

 「…あんなに楽しそうな息子を初めて見ました。王のおかげだ、本当にありがとうございます」

 

 確かに。よく笑うようになった。その分、いっぱい泣いていっぱい怒ってる気がするが、表情がころころ変わるようになった。最初は、気を使ってばかり、無理に笑ってばかりいた。


 「それはあんたの息子の力だ。正直、あの癒しに助けられてる」

 「本当に…親馬鹿ですが、いい子で…こんな父親を見捨てずに…」

 「あー」


 遊馬が頭をぽりぽりかく。父親の悲しい武勇伝については、自分も負けていない。


 「けど、あんたも努力したんだろう。魔法まで使えるようになって」

 「五年もかかりました」


 ぽちゃん、と、海に斑の父親の涙が落ちた。あえて、拭かずに見届けた。


 「最初はもう、何が何やら…異世界に来ているのだと理解できるまで二週間かかって…家族がどこにもいないと分かるまで一カ月かかって…賭け事で食っていこうにも、向こうの世界でも弱かったものですから。必死でした。自分より年下の魔法使いに頭を下げて…けど、一向に帰れなくて…それでも、斑と奏に会いたくて…やっと魔力の導きが先日、ありました。水の国。世界一の魔女が納める国だと。最初は殺される覚悟で来ましたが…あんなに可愛らしい方とは思わなかった」


 ぶっ


 落としそうになった煙草を慌てて拾う。環境破壊になる。


 「いや、あれは、あいつの魔法でな」

 「外見はもちろんですが、私は性格のことを言っているのです、王。純粋で、美しい目だ。貴方をとても愛してる」

 「沈めるぞ」

 「はは、王も可愛らしい」


 駄目だ、年の離れた同性と話す機会がそうなかったせいか距離が測りかねる。恥ずかしい。逆に距離を縮めてみよう、遊馬が顔を上げた。


 「そういえば、あんたの名前、聞いてなかったな」

 「溌です」


 溌、と名乗った斑の父親が、斑そっくりの笑顔を浮かべた。



 港に着いた。船にはあと十年乗っても慣れない気がする。吐き気と必死で戦っていると、一縷が水を持ってきてくれた。


 「ああ、悪い」

 「いいのだ。それより遊馬殿、申し訳ないが、私は一旦、単独行動に出る」

 「は、どこに行くんだ」

 「義父にバカウケの清楚なお嬢様系ドレスを買ってくる」

 「そうか、もう二度と帰ってこなくていいぞ」

 「行ってくる!結婚式には来てくれよ!」


 聞けよ、そしてもう結婚する気になってるのかよ。一縷をやる気なく片手だけで見送っていると、ふと、溌の荷物を持ってやっている斑が見えた。親子仲は良好そうで何よりだ。何気なくずっと見ていた遊馬に後ろから抱きついてきた草詩が、腕と腹の間から顔を出した。


 「お父さん、恋しくなっちゃった?」

 「会ったこともねえから、恋しくなりようもねえよ」

 「…僕にも家族がいたのかな」

 「そっちも覚えてもねえのに、恋しくなったのか?」

 「どうしよ、既に既婚者だったら。男と重婚してたなんて知ったら、自殺しちゃうかも」

 「お前と結婚してくれるような女だったら、大丈夫だろう」

 「えー」


 軽口をたたき合いながら、寄り添い歩く2人を、荷物を持った斑がじっと見守っている。その背中を更に見守り、溌が目を細めた。


 「斑ちゃん?重いか?」

 「ううん、大丈夫…それより父さん、斑ちゃんって止めてよ。草詩さんが真似するじゃん」

 「そうは言うがなあ」


 溌が斑の頭をくしゃくしゃ撫でると、少し赤くなった斑が手を払った。



 かもめが鳴く港町を歩く。水の国、五十二番地区。水の国の端に面するこの港町は、色んなものが貿易されやってくる。珍しい薬草もあるというわけだ。適当に挨拶しながら歩く草詩の後ろを歩いて行くと、ようやくお目当ての薬草屋に着いた。が。


 「いやああああああ、お父さん!」

 「止めろ、止めてくれ!娘は!娘だけは!!」

 「けっけっけ、恨め恨め!借金こさえた父親を恨め!」


 ここまでごってごてな光景も珍しい、借金取り、借金をした父親、その借金を返せない変わりに誘拐されそうになってる娘。死んだ目をして傍観している草詩と遊馬の背中を、斑が慌てて叩いた。


 「ぼーっと見てないで助けてあげて下さいよ!」

 「あ、めんご、めんご。ベタベタすぎて、本当にあってることって思えなかった」

 「しゃあねえ、な!!」

 「ぐあ!?」


 哀れ借金取りは遊馬の殴りにより遠くへ飛んでいってしまうと、こちらを向いた娘ははっと斑に駆け寄り、少し赤い顔で彼の両手を握った。


 「あ、ありがとうございます。命の恩人です」

 「い、いえ、僕は何も」

 「おい、今度は、あの女ぶっ飛ばしていいか」

 「ゆーちゃん落ち着いて。大丈夫大丈夫、僕の旦那さん世界一」

 「そうか、ありがとよ」


 始終何もすることがなかった溌は、ただ1人、後ろでずっと拍手をしていた。



 斑に心を奪われたはいいが、草詩を見て即効諦めたらしい娘は、奥へ泣きながら引っ込んでいった。苦笑しながらお茶を淹れてくれたのは父親だった。


 「すいません、失礼な娘で」

 「大丈夫、分かりやす過ぎて、逆に好感度上がったから。お茶なんていいからさ、薬草売ってくれないかな」

 「それが―」


 店主が、そっと店の棚をふり返る。一目で分かるくらい、何もなかった。

 

 「借金の肩代わりにほとんど…申し訳ない」

 「悪質なところから借りちゃってるみたいだね。違法なら、暴力で解決するけど、僕の旦那が」

 「場所はどこだ」

 「いえ…その…湯水のようにお金を借りてしまったのは私の方で…ど、どうしても…どうしてもギャンブルが止められなくて…!」


 お茶を飲みながら固まった親子三人の奥から、1人、目に涙をためた溌が店主の手を取った。


 「分かる!分かるぞ、店主!あの悪魔のささやきから逃げられなかったんだよな!」

 「おお、あなたも、あの悪魔から…!」

 「…どうしてこう、堕落してる人間って悪魔とか神様とかのせいにしたがるんだろうねえ…」

 「止めろ草詩、息子の前だ」 

 「その止め方も傷つきます遊馬さん…ああもう、恥ずかしいなあ…」


 赤い顔を覆うように隠した斑の肩を叩き、遊馬が立ちあがった。


 「よし、分かった。そいつらから薬草を奪う。他は悪いが、あいつらのところに置いていくぞ。借金はちゃんと返せ、おっさん。あとギャンブルは控えろ」

 「はい…努力します」


 こいつ絶対止めないな、まあいい、人の趣向まで気にしてる場合ではない。急ぎ店を出ていくと、斑が裏口から出てきた娘に掴まっていた。


 「こ、これ、良かったら…」

 

 とんでもかと愛がまみれたお弁当、斑におずおずと渡すが、彼は笑って首を横に振った。


 「ごめん、受け取れない。お父さんと食べて」

 「…っ、わ、私じゃ駄目ですか」

 「僕はまだ半人前だから、君を駄目だと判断するには早すぎる。だから、こんなに立派なものは頂けない。僕が一人前になってから、改めて考える」

 「…っ…はい」


 泣いた顔は真っ赤、これは余計惚れた。ため息が止まらない遊馬たち三人が、思い切り覗いていた。

 

 「息子がもてすぎちゃうのも面倒くさいなあ」

 「その捏造親子設定は出すな、本物の親御さんの前だ」

 「いいなあ、いいなあ、斑ちゃん」

 「あんたも落ち着け」


 つうかこんなときに一縷はどうした、どこまでドレスを選びに行ってるんだ―まあいいや、斑と合流し、遊馬たちは再び出発した。



 どうして悪人というのは汚いところに集まって汚い話をしているんだろう、そういう決まりでもあるんだろうか。魔力で偵察を送っていた溌が、ゆっくりと戻ってきた。


 「かなり強そうな用心棒がいます。魔法も使えるようだ」

 「昼間の態度からいって、穏便に薬草だけ売ってくれないだろうな」

 「売ってくれたところで、かなり、法外な値段ふっかけられそうですね…そうだ、草詩さん。魔法で、お金とか出せたり、出来ますか?」


 斑に見られ、草詩が両手でピザ生地をこねるような手つきを空中ですると、みるみる目の前に金貨が山になった。驚く間もなく、土になったが。


 「頑張ればもうちょっといけるけど、ばれなきゃ奇跡だね。これだけは苦手なんだよ」

 「俺は苦手で良かったと心底思うよ」 

 「どういう意味―?」

 「とにかく」


 ぶすくれて顔を近づけてくる草詩を、遊馬がぎりぎり離す。


 「力技しかなさそうだな。とりあえず俺が行って様子見てくるから、お前ら親子は、この馬鹿、抑えとけ」

 「「はい」」

 「うがー!」


 子供みたいに暴れる草詩を、斑親子が懸命に抑えてる。戻ってきたときには面倒臭そうだな、遊馬が汚い大型テントの中へと入っていった。



 中へは案外あっさり入れたが、匂いが酷い。土と血と金の匂い。何度も咳き込み、ようやく慣れた。薄暗い明りの奥に、1人だけ気配が違う男がいた。こいつが首領だろう。


 「あー?ずいぶんほっせえ兄ちゃんだな。何の用だ。うちに入団希望ってわけじゃないだろう」

 「薬草を売ってほしいんだが」

 「は…あのぼんくらじじいんとこの商品目当てか。ただってわけにはいかないなあ」

 「いくらだ」


 一応聞くと、男がにやにやしながら出した金額は、当然法外だった。草詩のおやつ何年分だ。


 「悪いが、そんなに金はない。薬草は奪っていく」

 「ははは!好きだぜ、分かりやすくて!じゃあ、おまえら、やっちま」


 言われる前に、飛びかかってきた男たちが全てふっ飛ばされた。これにはさすがに首領も青ざめていた。


 「薬草をくれないか」

 「…っ…先生!先生ぇ!!」


 -さんっ!!


 「おや、避けましたか」

 

 そう楽しそうに言う細身の男を見て、遊馬が嫌そうに舌を打つ。嫌なことを思い出す。これは、雪の魔法だ。


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