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急いで城の中に斑父を招き、斑と会わせた。
「…お父さん!」
「…っ、斑ちゃん!」
周りのものが吹き出した感動(多分)の再会は。
「…老けたね」
「お前はちょっと太ったな」
ぽつり、ぽつり、と、少し気恥ずかしそうに、ゆっくりと、それでも確実に会話を始め、誰が何を言うでもなく、それぞれがそっと部屋を出て、2人だけにさせた。
「お父さん、魔法使いだね」
寝室に辿りつくなり草詩がそう呟き、遊馬が驚いて彼を見た。
「じゃあ、斑の魔力は遺伝か」
「いや。彼を拾ったとき、彼に魔力なんてなかったよ。斑君の魔力は、彼の努力の結果だ。それより気になるのはお父さん。少なくてもこの世界に五年はいるね。君たちとは匂いが違う」
「ちょっと待て。じゃあ奏は。計算が合わないじゃねえか」
「お父さんが召喚されたのは、今、ここに僕たちがいる五年前。そして奏ちゃんが召喚されたのが、今、僕たちにいる五年前。それなら計算が合うよ。そしてそれを呼んだのは多分、斑君だ。深層心理で家族を心配してたんだろう。彼の魔力は不安定だから、お父さんはうっかり時空を間違えて」
「待て待て待て」
遊馬が草詩に詰め寄る。話についていけない。
「それが本当だとしたら、どうしてもっと来ない。昨日今日家族を心配するような薄情者じゃないだろ」
「これはあくまで僕の推測だけどさ…つかさっきから推測ばっかりなんだけど。この世界には、少なくても二種類の魔法があるんじゃないかって。思いのまま発動する魔法と、そんなに強く思ってないのに発動する魔法」
「分からん」
「何て言えばいいのかな…つまりさ。僕が明日、晴れろって魔法かけるじゃん。晴れるじゃん。でも僕は心のどこかで、明日、雨になれば君と一日ごろごろ出来るのにって思うじゃん。結果雨になった。さて、どうしてでしょう」
遊馬が顎に軽く指をあてて考え、やがて顔を上げた。
「雨になれって気持ちの方が強いからか」
「そう。だから、自覚はないのに、こっちの方が有効になるわけ。だから斑君は覚えもないのに家族を呼んだ。時空がずれたりはしたけれど。そして多分、君も、斑君も、僕が呼んだ」
「…なんだって?」
声が思わず少し掠れたが、あいかわらず草詩は笑っていた。
「僕はこの世界一の魔女だよ。実際、僕はここで王女にまで上り詰めた。僕はただ殺されたくなかっただけなのにね。君も、斑君も、僕が心の根っこでずっと呼んでたかもね」
「お前の暇つぶしにか」
「そう。君たちはあまりにも、僕に馴染みすぎる。もしかすると、ずっと昔に会ってたかもね」
つじつまは合うが、どれだけ記憶をひっくり返しても、草詩は出てこない。もちろん斑も。草詩は恐らく自分と年は変わらないが、斑なんて10違う。そうそう会う機会もない。更に言えば草詩みたいに濃い人間、忘れるだろうか。少なくても遊馬は記憶喪失ではないのだ。
「斑君がどれだけ努力しても、僕がどれだけ魔法をかけても、君たちは帰れない。僕の深層心理の魔法の方が強いから。僕を殺せば、魔法がとけて、元の世界に帰れるかもよ」
「何で、今、その話をする」
「斑君が、家族と一緒に元の世界に帰りたいと言いだすかもしれない。でも僕はきっと僕の魔法は、それに応じてくれない。彼と別れたくないからね。さて、どうする」
「どうするも、こうするも。それは斑が決めることだ。斑が望んで、それでも帰れないんだったら、その後考えることだ」
「君は帰りたくないの?」
「生憎、俺はこっちの世界が結構気に入ってるんだ。深層心理が効くっていうなら、俺も向こうの世界に帰れないだろうな」
そう遊馬が一気に話すと、息を吐いた草詩がごろんとベッドに横たわった。
「抱っこ」
「………なんだ、急に」
「不安になった」
「こんだけ恥ずかしいこと言わせて、まだ不安になるのか、お前は」
「僕が、君を帰したい気持ちの方がいつか強くなるかもしれない。僕は僕が思ってる以上に君が好きだから。例えば、大喧嘩して、ゆーちゃんなんて帰っちゃえーって思ったら、そのままってことも」
「そのときは、俺が、また、こっちの世界に渡ればいいだろ。おまえのふらふらした適当な魔力より、強く思う自信あるぞ、俺は」
「…本当?」
「残念だが、本当だ」
-ばんっ!!
「王、大変です」
-ばたん。
「失礼しました」
「待て待て、無言で去るな佐倉。まだ何もしてない」
「まだって言っちゃったよ。どったのー?」
「 」
部屋を開けるなり轟音のような泣き声に、遊馬と草詩は揃って耳を塞いだ。斑父と斑が必死にあやしているが、奏が全く泣きやまない。この泣き方は尋常ではない。
「どうしたんだ、ミルクもやったし、おむつだって」
「ど、どうしよう、父さん、どうしよう」
「落ち着け深呼吸!」
どすっ
「ふぐっ!」
「草詩、それはみぞおちだ」
目を回した斑が大倉に支えられている中、草詩が少し嫌そうに奏を抱く。そしてやがて真剣な顔になっていた。
「やられた。魔法熱だね」
「魔法熱?」
「赤ん坊が、魔力だらけの環境にいきなり放り込まれて、空気みたいに魔力吸い込んでぱんっぱんになってる。ありったけ氷持ってきて」
「はっ」
赤ん坊にこれはどうかと思うくらい冷やしまくると、奏は顔こそ赤かったが、ようやく落ち着いて眠っていた。感激した斑親子が草詩に飛びついていた。
「ありがとうございます!何とお礼を」
「ありがとうございます!やっぱり草詩さんすごい!」
「ああもう、うざい、この親子!言っとくけど、一時的だから!い、ち、じ、て、き!魔力吐き出させないと、最悪、死っ」
ばらばらばら!!
ノックと供にやってきた常盤は、恐らく草詩に持ってきたのであろう大量のお菓子を全て床に落としてしまった。それを律儀の御倉が一つ一つ拾っているが、彼女はぴくりとも動かない。その視線の先にあるのは、奏。
「…っ…ご、ごきげんよう、草詩様」
「ごきげんよう…あ、あの、常盤ちゃん、まさかと思うけど、あのね、あの子は」
「不潔!!」
ばしっ!
「いっで!!」
なぜか遊馬が殴られ、常盤はそのまま大泣きして走り去っていった。あのクソガキ、遊馬が恨みがましく背中を見ていると、ふと、大きな羽音が聞こえた。まさかと思って窓から覗くと、大きな花束を持った一縷が颯爽と現れていた。
「や、やあ、斑殿、いい天気だな!君の瞳と同じ色の花を見つけたんだ、君の瞳にかんぱ」
どさどさどさ!
馬鹿みたいな口説き文句でやってきた一縷が、馬鹿みたいに花束を落とす。今度はまた御倉が律儀に一輪一輪拾っていたが、やはり彼女は動じず、目線の先には、奏。
「…っ、そ、その子は…まさか、斑殿の…」
「い、一縷さん、落ち着いて下さい。奏は僕の」
斑が言い終わらないうちに、一縷がが!と彼の両肩を抱く。その目は泣いてこそいたが、燃えるように熱かった。
「大丈夫だ!私は心が広い!その子も、斑殿も、なんだったら君の元旦那も愛そう!!」
「旦那って言ったよ、おまけに元って。自分が一番になるのは譲らないんだね」
「斑に子供産ませたいなら、一生、その夢敵わないぞ」
「斑ちゃん!彼女なのか!彼女なのか!?可愛いな!!」
疲れた。ようやく一通り誤解が解けた。
御倉に探しに行かせた常盤と、一縷にようやく斑の妹だと認知させた。旅支度する一同の後ろで、常盤がぶすくれている。彼女の腕の中には、眠る奏がいた。
「魔力を吐き出させる薬草を探しに行くのは分かりましたが…どうして私が面倒見なくてはいけませんの」
「常盤ちゃん、こんな小さな子と君を連れていくわけにはいかないでしょ。それに、赤ん坊と一緒にいる君は、もっと可愛いな。ずっと見れなくて残念だけど」
「草詩様!!」
はいはいお約束、草詩のカバンからひたすらお菓子を抜き大事なものと詰め替えている遊馬の背中を、常盤が軽く蹴ってきた。
「何だよ」
「そ、草詩様に何かあったら許しませんから」
「分かってるよ。子育て頑張れよ、常盤ちゃん」
「~!!」
「いででで!」
真っ赤な顔で遊馬をがんがん蹴っている常盤の少し向こうで、面白くなさそうにしている草詩を見て、斑があれ、と思う。もしかして―
「一縷ちゃんか。よろしくな」
「おおおお初におめにかかります!お父様!私、斑殿と不健全な交際を」
「一縷さん!」
とりあえず今は一縷を止めよう、斑は急いで父と一縷の元へ急いだ。




