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覚悟というよりは予想していた事態ではあったが、連れて来られるなり散々鞭でぶたれた揚句に牢にぶちこまれた。とんでもない歓迎だ。斑と草詩もこんな目に合ったのかと思うと鞭に打たれている間も痛覚を感じる余裕もなかった。それで鞭を打つ相手も止めどころが分からなかった、別の男がもう死ぬぞと声をかけたところで鞭打ちが終わった。
牢にぶち込まれ、繋がれて、痛い気がするが、血が流れ過ぎてあまり感覚がない。出血多量で死んだら本末転倒だ、くらむ意識が消えないように耐えていると、向かいの牢の男と目が合った。
「…斑!」
「…っ、え…あ、遊馬さん!遊馬さん!!」
向かいで同じく繋がれてる斑は、俺の姿を見るなり、鎖に繋がれて引っ張りすぎて暴れる犬状態になっていた。遊馬は思わず噴き出した。一気に体力が回復した気がした。
「怪我ないか」
「そんな血まみれな人に言われたくないです!すいません…僕たちが捕まったせいですよね」
「そんなことはいい…っ、草詩は」
反射的にそう聞いてしまい、遊馬はすぐに後悔した。斑の表情が震え始めたからだ。言わないでくれ、と叫んでしまいそうだったがぐっと耐えた。自分はこれを聞かなくてはならない。
「…っ、分かりません…すいません。もう、色んな事がありすぎて…何が何やら…っ…」
「…そうだよな。悪い。斑、言いたくないならいい。もし言ってくれるなら、ゆっくりでいい。いくらでも待つ」
「はい」
斑がしゃくりあげながら、少しずつ、話してくれた。
雪の王に拉致られた直後、最初はこれでもかともてなされたらしい。食事や酒がふるまわれたが、草詩の指示で斑は食べるふりをして全く口をつけなかった。もちろん草詩もだ。
一人酔いつぶれた雪の王が眠っているすきに、2人で逃げだそうとしていると、目が覚めた雪の王が怒り狂い、奴隷商を呼び、2人を売りとばしたのだという。
それから2人は当然男だということになり、鞭打ちにされそうになった斑を、草詩がずっとかばっていたのだという。それでもなお魔力が輝き続ける草詩を珍しそうに、大男が草詩を抱えてどこかへいってしまったという。
「…そうか…」
「すいません…草詩さん、僕なんかをかばわなかったら…」
「いや、お前は生きてくれてただけで偉い」
ぶちっ
「…っ、遊馬さん!?」
「何だよ」
無理やり縛りを解いたせいで変な方向に曲がってる腕をぶらさげながら、自由になった遊馬が立ちあがる。
「何だよじゃないですよ!大丈夫ですか!?」
「折ったかもな」
「そんな冷静に!確かに自由にはなりましたが…っ、ああもう!治しますから、僕も自由にしてください!」
「嫌、駄目だ。お前はここにいろ」
「僕も行きます!草詩さんが心配なんです!」
「それは」
そうだが、正直、斑を連れていくことがリスクが大きい。雪の王の魔力が全く敵わなかったこと、草詩もあっさりさらわれたことがある。しかし自分が逃げたことが分かり斑がここにいたままでは、彼が酷い目にあわされるかもしれない。どうしたものかと遊馬が叫んでいると、思ってもなかった匂いが舞い込んできた。
「…っ斑殿おおおおおおおおおおおおおおおお」
どさどさどさっ!
「うわ!?」
「一縷!?」
「遊馬殿!」
荒々しいウインクと供に現れたのは、火の王、一縷だった。どっから入ってきたのか、とりあえず、斑を押し倒している。まあ、もう、どうやってきたかとかはどうでもいい。
「よし、一縷。そいつを守れ。殺したら殺す」
「分かった、任せておけ」
「ちょ、遊馬さん!?」
「絶対死ぬなよ」
そう睨みつけながら言うと、遊馬は走り去って行った。追いかけようとしたが、斑はまだ自由の身ではない。大きくため息をついて、座り直すと、一縷が全て解いてくれた。
「よし、これでもう大丈夫だ。斑殿、一緒に」
斑に会えて嬉しくて仕方がないにこにこ一縷が話しかけるが、その笑顔があっという間に曇っていく。向かいの斑は、怒っていたからだ。
「なんでこんなところで女の子一人で来るの。危ないだろう」
「…っ…」
「…え、え、え!?」
一縷が泣いた。途端、斑が慌てる。自分は普段めったに怒らない上に、怒りが長続きしない。
「ごめん、強く言いすぎた」
「いや…いいのだ…そうだな、考えなし過ぎた…斑殿を助けに来たのに、私がどうにかなったら本末転倒だな…そなたの危機は、大倉殿が伝えてくれた」
「大倉君が?」
城にいる召使い人形三人組のうちの一人である。仕事が早いのはいいことだが―まあ、いい。今は。ここから出られた。遊馬を送り届けられた。今度は、追いかけられる。
「よし、行こう」
「やはり、行くのだな…うん、分かった。では」
「斑様!斑様!!」
「…えええ常盤ちゃん!?」
なんだかずいぶん大胆な格好をしている常盤が、牢屋めがけて走ってやってきた。
「大丈夫ですか!?生きてますのね!ああ、良かった」
「あ、ありがとう、常盤ちゃん」
自分はやたら女の子に心配されるなあ、情けない。顔をかきながら常盤をなだめていると、少し遅れて向こうから佐倉が走ってきた。
「常盤様、早すぎます…っ、斑様、ご無事で」
「うん、ありがとう。それよりも…」
「申し訳ございません。大倉の頭には灯油でもかけておきます」
「はちみつくらいにしてあげて」
よし、今度こそ、行こう。
競り市場本会場。
今、正に競りをかけられているのは、泣き叫ぶ産まれて間もない赤ん坊。観客席最前列には、泣け叫ぶ女が捕まえられている。母親だろうか。
他ほ観客たちは爆笑しながら、母親までも競りにかけようとしている。狂っている。何も、かもが。
「 」
どおおおおおおおおん!!!
すさまじい爆発音、兵士たちが一斉に構える。戦車か何かやってきたかと思ったら、煙の中から現れたのは細身の赤毛の男―遊馬だった。
「貴様、何者だ!」
「ここは神聖なる、貴族たちの遊び場だ!」
「神聖だ?ここが神聖なら、女装してるうちの王女は何だ。神か?」
中央で泣き叫ぶ赤子を遊馬が抱きあげると、母親が悲鳴を上げた。
「お願いします!その子だけは!その子だけは!!」
「あああああああああ」
「ああうるせえ…ガキとは相性悪いんだよ。ほら、母ちゃんだ」
「えっ」
泣くわが子を無事返してもらい、呆けている母親に逃げろと耳打ちすると、彼女はいちもくさんに走り出した。母は強い。当然兵士たちがやってくるが、全て拳で薙ぎ払った。
「っ…何者だ、貴様!」
「水の王、遊馬だ!俺のかみさん渡してここをぶっ壊すのと、ここをぶっ壊して俺のかみさん返すのとどっちがいいか決めろ」
「いや、それ順番変えただけで一緒じゃん!」
「うるせえ、草-…」
いた。
手をひらひらさせながら、最高金額の札を貼られた草詩が笑って、そこにいた。
「あーあ、ずいぶん派手にやっちゃってまあ。どうしたの、何かむかつくことでもあっ」
これでもかと。これでもかと痛く抱きしめられ、草詩は少し赤くなった。ものすごく目立ってる。
「ちょ、ちょっと…ゆーちゃん。みんな、見てるよ」
「知るか」
「…ぅ、ん…」
-ぱん!ぱん!!
「い、痛っ、痛いっ!何ですの!?」
「常盤ちゃん、見ちゃ駄目!」
「…うわああああ」
真っ赤な顔をした斑と、すごい目をした佐倉が同時に常盤の両目を塞いだ。ものすごい煙、崩れた建物、再起不能のたくさんの兵、そして中央の―水の国の最高権力者2人。多分。
「…っ、斑君!」
「草詩さん!草詩さん!!」
よかったもう近づいてよさそうだ、斑が2人に近づいていく。ぐったりと動かない遊馬が、草詩の首元に倒れこんでいた。眠っている。
「この馬鹿、どうにかして」
「そんなこと言わないで下さい、僕たちを心配して、こんなところまで来てくれたんです」
「分かってるから、困ってる」
草詩の顔を見て少し赤くなった斑が、思わず自分の眼鏡を外して、草詩にかけた。
「え、何?何?」
「いいから、それで顔を隠しておいて下さい。被害者が増えて、遊馬さんがもっと怒ったら困ります」
「いや、だから何の話…」
「そこまでだ!!」
会場に響き渡る声と供に現れたのは、雪の王、鵜乃。
「私に大人しく買われろ、水の美しき王女。さあ、私の元に」
言い終わらないうちに、彼の髪の一部が焼かれる。その魔法撃は、斑が無詠唱でかけたものだった。一縷と草詩が驚いている。いつの間にこれほどまでに―
2人の視線に気づかないほど集中している斑は、鵜乃を睨みつけた。
「貴方は、大嫌いです」




