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目を見ては、離し。目を見ては、離し。そんな絶賛中学生日記みたいな視線だけのラブコメを繰り返され、遊馬と草詩がどうにか二人を船からたたき落とさないでいると、急に、燃え上がるように暑くなってきた。沸くような暑さに状況が整理出来ないまま、瞬間、信じられない景色が広がっていた。空も、海も、大地も、全て赤い。目に見えるもの全て炎に包まれている。どこもかしこも赤く、境界線が分からなくなる。
異世界に来て、ずいぶん、とんでもないものには慣れてきたつもりであったが、これは-…まるで地獄の業火そのものだ、遊馬が声も出せないでいると、ふと御倉が大きな布をかぶせてきた。
「何だ」
「着て下さらないと、逆に火傷します」
なるほど砂漠と同じようなものか、遊馬が大人しく着ると、草詩も珍しく続いた。そういえばこの国には来たことがあるようだった。斑もくるめられてきる。一縷はといえば、暑さに慣れたように、何も纏わずふわりと色鮮やかな羽を生やし飛び上がった。
「ここより先、船は無理だ。溶けてしまうだろうよ。飛ぶ魔法は使えるものは…人形諸君は大丈夫のようだな。では使えないのは遊馬殿と斑殿…か…ししし仕方ないな、斑殿は我が」
ぱっ
「あーーー!!」
一縷が悲痛に叫ぶ、斑は草詩がさらうように運んでいった。舌を出したのが見えた、あいつ絶対面白がってやがる。船に残るのは遊馬だけ、目が合うと一縷はわっと泣いた。
「俺は全く悪くないが、まあ、すまん」
「貴殿、すまないが、泳いで渡ってはくれまいか。我は傷心で飛べそうにない」
「お前より俺の方が重傷になるから勘弁してくれ」
女性に、というか人に運んでもらって移動するなど屈辱以外の何でもなかったが、飛べないものは仕方なかった。加えて、下に広がる大地を見てとても俺は大丈夫だから歩くとは思えなかった。燃える、燃える、炎がどこまでも燃える。炎ばかり眺めて、気が狂いそうだ。
「不躾なことしか言えんが、本当にこんなとこで生活してるのか」
「我らが住むのは、もう少し行った先だ…ほら、見えてきたぞ」
炎など、可愛らしいものに見えた。破壊されたであろう城、ゴーストタウン化した家々、泣きわめく子ども、祈り続ける老人、暴れ回る若者、何を争っているかと思えば、今子どもから取り上げた小さな果物一つ。目を伏せてしまいそうだったが、一縷はしっかりと前を見ていた。
「凄まじいところだろう」
「ああ。俺は自分が落ちたところが水の国で、始めて感謝した」
「そうか、始めてか」
一縷は乾いたように笑い、そして、降り立った。瞬間、石や攻撃物が飛んでくるが、慣れたように、遊馬が助け船を出すより早く、彼女の周りで全てのものが破壊された。
「ようこそ、火の国へ」
歓迎の声を聞くまでもなく、どこに潜んでいたのか、わっと悪漢たちが一縷めがけておそいかかってきた。それぞれが物騒なものを持っている。
「お帰り王様ぁ!」
「金めのものは持って帰ってきたか!?」
「おら、身ぐるみ剥いじまえ!!」
向き治った遊馬を手で制し、一縷がさっと細い両腕で男達の動きを止めてしまう。すごい力だ。痙攣している、怪力ながらも辛いのかと思っていたが、彼女は怒りで震えていた。
「悲しい…我は悲しいぞ…今日は客人が来ておるというのに…一度くらいお利口さんにお帰りなさいと言えないのか、馬鹿者供め!」
戦巫女、まさにそんな言葉が動くような立ち振る舞いだった。舞うように、男達をいなしていく。だが、だからこそもったいない。決して殺すまい、出来るだけ傷をつけまいとしているのが目に見える。要が詰めが甘いのだ。隙を見て逃げようとしているようだが、それは向こうも同じだろう。一人だけ隠れていた男が、さっと一縷の後ろから襲いかかってきた。
「なっ」
「危ねえ!!」
まあ、よく飛んだ。人ごとのように言うと。
隠れていた男は吹っ飛び、家々を破壊しながらようやく止まった。奇跡的には生きている。これには他の男達も、そして一縷も驚いたようだが、男達の復活は早く、再び彼女に襲いかかり、彼女もまた再び戦い始めた。
「助けてもらっておいて何だが…出来れば殺さないでくれ!あれでも私の財産なんだ!」
「悪い、俺もよく使い方が分かってないんだよ」
男達と肉弾戦を繰り広げながら、一縷と話しながら、遊馬は自分の拳を見た。本当にこの力はなんなんだ、魔法が使えてるとするならば、どうして元の世界へ帰さない。
帰りたくないのか?俺が-
「よそ見なされるよう」
「危ないですよ」
棒読みの注意をよびかける声に我に返る。御倉たち三人がかけつけ、あっという間に男たちを羽交い締めにした。殺さないように、命令の必要はないようだ。
「行くぞ、一縷」
「しかし、彼らを置いていくわけには」
「私たちは大丈夫です」
「我が王をお連れ下さい」
その言葉に従い、一縷が走り出し、遊馬が続く。部下とはいいものだな、という言葉を聞いて、遊馬は答えられず小さく笑っただけで終わった。当たり前のようにあるものは、うらやましがられない限り、価値が分からない。




