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終わってしまえば何のこともなかった内乱も無事解決し、平和すぎる毎日がまた戻ってきた。朝起きては勝手にしがみついて眠る草詩をはがして佐倉に押しつけ、朝飯の卵はどうするか御倉に頼み、また床に寝ている斑を引きずってくるように大蔵に言い。毎日毎日日々平和、何日経ったか何ヶ月経ったのか、もし元の世界に戻って100年経っていましたの浦島太郎状態でも、リアクションとして一応驚くような気はするが、時間が経てば諦めるだろう。
草詩は今日も暇そうに、自分で遊びを探している。戦争をしたいなどと言い出さないだけマシだが、今日はなんだか寝室に嬉しそうに探している。どすんばたんとやかましい。
「今日は何の遊びだ」
「ゆーちゃんの浮気調査」
「うわ、」
朝から頭痛がした。ときどき忘れそうになるが、そういえば夫婦設定だった。当たり前だが夫婦らしいことは何一つしてないが、こういうイベント事だけノリノリになる。
「何が浮気だ、誰かさんが毎晩毎晩ひっついてるおかげで、俺はそんな元気ねえよ」
「でも長い髪が出てきたわよ、あなた!」
「そら、お前のヅラだ。短いのが出て来てもお前だよ」
「うーわ、つまんないの。俺を信じてくれ!世界で一番愛してるのはお前だ!くらい言ってほしかったのに」
「言われて嬉しいか」
「指さして笑う」
「あーそうかい」
平和だ、実に。
「…お。」
「…っ、お、おはようございます」
一瞬誰かと思った。廊下で掃除をしている小さな影は、巫女塔にいるはずの常磐だった。
「何、お前、帰ってきたのか」
「定期的にですけど、様子を見に伺おうかと思いまして…男所帯で草詩様も大変でしょうし」
草詩も男なんだがな、これは余計な言葉、言ってはいけない禁句。
「あれ、常磐ちゃんおはよう」
「…っ、草詩様!」
ハートが飛び交うような勢いで常磐が草詩の元に笑顔で挨拶に行くのを何となく眺めながら、遊馬が盛大にため息をつく。分かりやすいにもほどがる。
「そしてこの平和な朝が、遊馬の最後の朝になるのだった」
「後ろから不穏なナレーションを流すな」
もう完全に諦めたというか元々探してすらいないが、相変わらず元の世界に戻る方法は分からず、帰れそうな気配さえない。斑以来、世界を渡ってきた者の情報は入ってこない。
あるきっかけで国民から草詩への病的なまでの信頼はなくなったが、それでも国民はゲンキンなもので、働く人形たちを無償で使わせ、横暴でなければ頼みもある程度遊馬が聞いてやっていると、国民の株は上がった。一揆どころか、苦情の一つも起こらない。
「ひーーま」
椅子の上でふざけて溶けたポーズをしている草詩を見て、書類に判子を押し続けていた遊馬が一喝する。
「暇なら別のとこで垂れろ、ここにいるなら仕事手伝え」
「でもこの前手伝ったら怒ったじゃん」
「お前がドラゴン飼いたいなんて案件に判子押すからだろうが!」
「いいじゃんドラゴン飼いたいじゃん!ちゃんと世話するから!」
「本当に拾ってきたら蒲焼きにして食ってやるからな」
「おかあああさあああん」
暇も平和も考えものだ、草詩と棒読みで母子コントをやっていると、少し入りづらそうにノックが聞こえた。この城でこんな控えめなノックをするのは一人しかいない。
「斑、入れ」
「おじゃましまーす」
また何か研究だか勉強だかしていたのか、ぼさぼさ頭の斑がばつが悪そうに微笑んだ。
「すいません、楽しそうなところ」
「ほんとだよ」
「草詩!悪いな斑…何かあったのか」
「あった、というか、ご相談が」
これを、と斑が出してきたものは、ピンクの可愛らしい封筒だったが、文字はものすごく殺伐に、可愛くない字で、猛々しく書いていた。さすがにこの国の字をある程度読めるようになってきたとはいえ、あまりの内容に遊馬が顔をしかめた。
「草詩、読んでくれ」
「…拝啓、遊馬様。今宵、貴方のお宝を頂戴つかまつります。宝の名前は斑、よろしく!!」
「ああ読み違いじゃなかった!」
「すいませんすいません何かすいません!」
「いいからお前は謝るな」
今すぐにでも泣きながら土下座してしまいそうな斑を押さえつけ、遊馬が嫌そうに草詩を見る。予想はしていたが、ものすごく嬉しそうだ。
「よし、犯人生け捕りにしよう。それで拷問しよう」
「ご!?」
「草詩、本音は包み隠せ。うちの可愛い息子をくれてやるわけにはいかん、俺も見張る」
「あなた、次は女の子が欲しいわね」
「女は駄目だ、嫁に行く」
捏造お父さんとお母さんが殺気だった-安心はした、ある意味ものすごく心強い、が、同時に犯人がすごく気の毒でもある。自分も自分を見張ろう、斑は強く決意した。




