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しつこいようだが本当に毎日毎日日々平和だった為、いきなり内乱とか起こられても、何だか異世界の話みたいだ。元々異世界じゃねぇか、といったツッコミはおいといて。
「草詩様、国民が攻め込んで参りました」
「身を乗り出してないで、非難して下さい」
「やーーーだね!誰が逃げるか!やばいやばい来た来た、ひっさびさのこの感じ!ぶるううううはっはっはっは!!跪け人間供よ!軒並み灰にしてくれるわ!」
「お前はどこの魔王だ!」
「いったぁ!!」
何すんのユーちゃん、半泣きで振り返った草詩は目はちゃんとこちらを見ており、頭上からかかとを落とした遊馬は随分安心した。目がイってたらどうしようかと思った。
「馬鹿なこと言ってないで止めるぞ」
「えー、戦争やりたいやりたい」
「脳内で済ませ。おい…おい!」
召使い人形その1を呼びつけたつもりが、1も2も3も来た。今更だがややこしい、紛らわしい。遊馬はズボンの端を強引に破り切ると、一番身近にいた人形の手首に巻き付けた。
「お前、今から佐倉。名前は適当だ」
「…ありがとうございます」
「どうすりゃいい、どうすりゃこれは止まる」
「そうですね」
佐倉と名付けた人形が城下を見下ろし、遊馬も続く。肉弾戦を続ける人形たちと民が争っているかと思ったら、民は遠くから見学しているだけ、応戦しているのは、召使い人形たちよりもよほど人形らしい、まさに動くマネキンだった。お世辞にも人間には見えない。
「何だありゃ」
「廃棄された私たちを術者が半端に復活させたんでしょう。言語能力はなさそうですが、戦闘能力は私たちと同じくらいです」
「勝てそうか、お前達で」
「可能ですが、難しいでしょうね」
「あっちのが強いのか」
「いえ、」人が人を簡単に殺せないのと似たような理屈です
なるほど、分かったような分からんような。遊馬は少し考え、ああ、と呟いて顔を上げた。
「どうしたら、敵方の人形は止まる」
「術者を叩けば止まります」
「よし、じゃあ、術者を捜すぞ」
「はい」
「あ、俺も行く」
「お前は留守番!」
「えーーー」
「…だ、大丈夫、ですか?」
ごねる草詩の後ろから、様子をうかがいに来た斑と目が合った。いいところに、遊馬は斑の両肩をがっと掴んだ。
「お前の重要任務を授ける。草詩を見張れ。絶対に城から出すなよ」
「えええ僕に出来るかな!?」
「頑張れ、期待はしてない」
「ああ、してないんだ…!」
よし、解決してないが解決したことにする。遊馬が走り出すと佐倉も続いた。ごねる草詩の声と早くも苦戦を強いられてる斑の声が聞こえる扉を、気休め程度に施錠した。
しばらく走って行くうち、遊馬はあることに気づいた。佐倉は闇雲に走っているわけではなく、目的地があるようだ。
「術者の居所が分かるのか」
「分かるというか…あれだけ大規模に魔法をかけられる場所は、城以外に一つしかありません」
「どこだ」
「巫女塔です」
ずっこけそうになった。ふらついた遊馬を佐倉が律儀に支えようとするが、いいよ、と軽く手を払った。一気に頭痛がした。耳元で常磐の甲高い声で怒鳴られている気分だ。
「まさかとは思うが、常磐の腹いせか」
「そこまで性格悪くないと思いますよ」
こいつも結構言うよな-苦笑しながら遊馬が走ると、その張本人が見えた。呑気に花壇に水をやっている純白のワンピースに包まれた美少女は、あっという間に怒り狂った常磐に顔を変えた。
「ななな何しに来たんですの、このゴミ虫!」
「ゴミの上に虫か、すげえ嫌われたな」
「私は絶対城には帰りませんからね!」
「いや、今日は迎えに来たわけじゃなくてな」
何で泣きそうになるんだ、面倒臭いなお子様は。遊馬が困り果てたように頭をかきむしると、気を利かせた佐倉が一歩前に出た。
「少し、困ったことが起こりまして。今、巫女塔で祈りを捧げてる方はいらっしゃいませんか」
「今は…確か、巫女婆様の時間です」
「婆さん?」
「失礼な、年は重ねられても、最高位の巫女様ですよ!」
「あーそ」
頭をかき終わった遊馬が塔へ登ると、ついていこうとした佐倉を手で制した。
「お前はここで常磐と水でもやっとけ」
「常磐様の前で、巫女婆様を責められない気持ちは察しますが」
「そんな格好いいもんじゃねぇよ」
そんな格好つけたいわけじゃない。あえて言うなら、こういう損な性分なのだ。目の前で誰かがどうにかなるくらいなら、自分が前線に出た方がよほど楽だ。
どこまで登ったか分からなくなるほど、永遠と、螺旋階段を登る。巫女塔内は想像とは違い、縦長い、地味な教会のようだった。階段をひたすら登ると、ようやく最上階に着いた。一階ずつ調べるのが面倒だった為、最上階から降りながら調べようかと思ったが、いきなり当たったようだ。
「巫女婆さん?」
「あら…王様かね。どうもいらっしゃい」
これはこれは-遊馬が自棄気味に笑った。絵本に出てくる小さくてまん丸な魔女婆さんを想像していた。確かに小柄だが、ちゃんと立ち、そして、目は厭に澄んでいる。とんだ小鬼のようだ。
「今、城に人形供が責めてきてる。違ってたら悪いんだが、あんた、その人形供を操ってないか?」
「ほ…それが何か?」
こいつ-全く悪びれる様子がない。それが逆に恐かった。ここにきてようやく遊馬は、目の前の老婆の目が、澄みすぎていることに気づいた。草詩の魔法で病んでいるのだ。
「草詩様が一番でないとなりません。草詩様が女王でないとなりません。草詩様が王位であること、それが重要なのです。それを脅かすものは例えどんな者でも、排除致します。そういう風に、出来ているのです。そういう風に成り立っているのです。それがこの世界の均衡」
ぞくり、と一瞬背中に冷たいものが走った。宗教にはまった人間というのはこういうものだろうか。遊馬が声をかけられずにいると、ふと、老婆がいきなり天井近くまで跳んだ。
瞬間身構えるが、老婆はいきなり、雨のように液体をばらまいた。避けきれる媒体ではない、咄嗟に身を丸めるが、何も起こらない。
警戒しながら目を開けると、そのまま、立ち尽くすしかなかった。
多分、こうなっていたのは自分の方だったのだろう。がらん、と、目の前に灰の固まりから生えるように木の棒のようなものが転がっていた。その棒の端には、自分の服の切れ端の一部が見えた。
佐倉。
別に。人形なんていくらでもいた。そもそもこいつらは生きていない。代わりはいくらでもいる。なあ、なのに何で。
「 」
「-っ、ひゃ!?」
何で、こんなに拳が唸るんだ。




