第8話・天才とバカは紙一重
中学生には大体二つのタイプの人間がいる。勉強が出来る奴と出来ない奴だ。それが顕著に現れるのが定期テストである。中学一年の時にそこそこ良い点数だった奴も、三学期にはボーダーライン(義務教育だし赤点とかはないが)を低空飛行している者も多い。理由としては、部活、やる気などの問題で一夜漬けに成らなずを得ず、結局一夜漬けではどうにもならなかったというものが多い。
そして一夜漬けの敗者が横に二名ほど項垂れていた。
一学期末テストが返却され、ご丁寧に一人一人点数表をくれたのである。これを見れば何の教科が何点だったか一目瞭然。人によっちゃありがた迷惑な代物である。
「五教科合計二百点弱…。なにこれ新手のイジメ?」
「歴としたお前の実力だよ」
別に教師はお前のことを恨んじゃいない。
「な、なんだってー!!!」
柏原は足下から崩れて椅子に寄りかかった。
因みに内訳は国語三十点、数学二十四点、英語三十八点、理科六十六点、社会四十八点である。合計二百十六点だ。
「全く、お宝本ばかりにかまけているからそうなるんだ」
「んだと? そういう原田はどうなんだよ!」
柏原は原田の点数表をひったくった。悪いとは多少思ったが覗き見させてもらった。
内訳は国語七十点、数学五十六点、英語二十四点、社会三十点、理科四十点。合計二百二十点。僅か四点と若干とはいえ原田の方が点数が高い。
「なんだよ、対して変わらねぇじゃねぇか」
「二百十点代と二百二十点代…。この差は覆らない」
「んだと!?」
二人共無駄にプライドが高い。一触即発の雰囲気の中で、委員長と奥井が現れた。
「どうやらあまり望ましい結果ではなかったようですね」
見るからに頭の良さそうなこの二人にテストの結果を聞くのは野暮だな。柏原と原田を傷つけるだけになりそうだし。
「委員長と奥井はどんな感じ?」
バカかお前は!? こんな見るからに頭良さそうなのに聞いたら、傷付くのはお前だぞ!
「五教科の合計は四百六十二点です」
「私は四百二十五点よ」
原田は涼しい顔をしていたが、柏原は露骨に精神的ダメージを負っていた。
「バ、バカな…。委員長はともかく奥井は脳筋(脳ミソ筋肉いぇいいぇーいの略)だと思っていたのにっ…」
というか、そんなことをべらべら吐露するもんじゃないと思う。
「そうですよね。私も不思議に思ってました」
「え゛っ!? ちょ、嘘よね!?」
委員長にまで言われて焦る奥井。相当パワーキャラが嫌なようだ。
「はーはっはっは! 委員長にその付き人がそのような点数ではいかんぞ!」
おかしなテンションでおかしな奴がやってきた。
彼の名は天野賢児。「賢」という自分の名前にプライドがあるのか、滅茶苦茶テストの点数を取る奴である。
「私の点数は見たまえ! なんと四百八十点だ!」
天野は誰も聞いちゃいないのにテスト成績表を自慢気に見せびらかしてきた。
ウザい。
「はぁ、すごいですねぇ。おめでとうございます」
委員長はテキトーにちらほらと拍手をした。
「はーはっはっはっ! そうだろうそうだろう!」
天野は委員長が投げやりな態度であることにも気付かず高笑いした。
ウザい。
「ウゼぇぇぇぇぇっ!!!」
柏原は軽く回し蹴りを天野に決めた。
「くっ! 何をする!?」
「うるせぇ! これ以上男キャラは要らねぇんだよ! バランスを考えろ!」
何を言い出すんだお前はっ!?
「はーはっはっは! そんなことか! 安心したまえ。私は君たちと馴れ合うつもりはない。委員長と私はライバルだからな」
「ライバル…?」
委員長は小首を傾げた。全く意に介していないご様子だ。
「すみません、何を言っているのか理解出来ないです」
「なん…だと!?」
愕然とする天野。一方的にライバル視していた感じだし、仕方ない。
「まさかライバルという言葉を知らんのか!?」
お前の方がまさかだよ! 柏原でも知ってる言葉を委員長が知らない訳がない。
「いえ、まさかあなたとそのような間柄だったとは…」
「何を言う! 天才たる私に拮抗しうる人物など伊藤綾の他に誰がいるものか!」
どうやら天野が一方的にライバル認定していたらしい。迷惑この上ない。
「はあ。ですが柳谷君も中々のものですよ」
「はあっ!?」
突然の委員長の暴言に思わず吃驚した。
「例えば…これ読めます?」
委員長はルーズリーフに流暢な字で“飛蝗”と書いた。
「飛び…。虫に皇って何だよ?」
柏原はさっぱり分からないらしく、腕を組んで唸っている。天野も口には出さないが、苦い顔をしていた。飛び回る虫とヒントは隠されているんだがな…。
「バッタだろ」
「ご名答ですね」
やっぱりか。意気揚々と答えて外したらカッコ悪いからな。
「…く。こんなもの、学校の問題には支障ない」
苦虫を噛み潰したような顔で天野は言った。
「でも学校の勉強以外にも詳しいってスゲーよなぁ~」
柏原がわざとらしくからかう口調で言う。
ちょ、あんまり天野を刺激しないでくれるか。
嫌な予感が…。
「く…、これで勝ったと思うなよ! 伊藤綾っ! それに柳谷統夜っ!」
そう言い捨てて天野は去っていった。
って…
「俺もライバル認定された!?」
委員長は俺の肩に手を置いた。
「まあ、気を落とさないで下さい」
「元凶が何言ってやがるっ!」
くっ、俺としたことが…。
「なんてことだ…」
おお、原田も一緒に嘆いてくれるのか!
「あいつ、某ギャルゲーの捨て台詞吐いていった…」
「どうでもいいわっ!」
本当に心底どうでもいい。
つかこんなオチでいいのか?