第6話・みっくすじゅーす
ども、柏原栞です! 下ネタ大好きな柏原湧の姉って奴だね。今日もまたバイトが早めに終わったので、弟に何か素敵なプレゼントをしたいと思います。つか何で私こんなに早くバイト上がらせられるんだろ…? まあ細かいことは気にしない気にしない! 今は弟に素敵なプレゼントをすることに努めなければ!
でも良かれと思ったお宝本移動は逆効果だったし、何がいいのかしら。最近の中学生全く読めないわ…。お宝本追加とかなら簡単に喜んでくれそうだけど、それじゃ芸がないし。
そうだ、オリジナルのミックスジュースとか作ったらどうかしら。
そうと決まれば早速冷蔵庫に突撃ね。
私は冷蔵庫の中をガバッと開けてみた。むむ…、中々のスカスカ具合ね。買い物行った方がいいかしら。あ、久々に姉弟水入らずで買い物もいいかも。ミックスジュースプレゼントしてあげるんだから、買い物くらい手伝ってくれるわよね。
さて、材料として使えそうなのはと…。む、ニンジンとピーマンに牛乳かぁ。野菜がニンジンとピーマンしかないなんて、ミックスジュースとして致命的な気がするわね。他に何かないかな。
あ、そういやお母さんから補給物資が届いてはず。中身見るの面倒だから、段ボールのまま押し入れに入れちゃったのよね。
というわけで、私は押し入れから段ボールを取り出した。届いて三日くらい経ってるけど、生物が入ってるわけじゃないし大丈夫よね。
かぱっと、いや音的にビリっ! とかベリっ! って感じだけど、とにかく段ボールを開けた。
その瞬間、私の鼻腔にとてつもない臭気が届いた。
てか臭い!
超絶にキムチ臭い!
家の一帯が韓国みたいだよ…。
そうだ、これもミックスジュースの材料にしよう! 牛乳で匂いが消えて、案外いい感じになるかもしれないし!
ついでに韓国海苔と韓国海苔inチョコレートも入れよう。キムチの辛さが抑えられるし。前のスパゲティで辛さに抵抗があるかもしれないしね。
さっすが私、こんな弟想いなお姉ちゃんいるかしら。
早速レッツミックスジュース!
ちっ、最近原田も柳谷も付き合い悪いぜ。放課後の語らいよりもドラマの再放送選びやがって。
まあいいや、俺もドラマの再放送見よ。どうせ帰っても俺一人だし。
「つう訳でただいま~」
「何がつう訳か分からないけどおかえり~」
ってわおっ!!
何故にまたもや姉貴が居んの!?
「バ、バイトはどうしたんだよ?」
「何かまた早く上がっていいって言われてね」
どうしてこう何回も早く上がらせられるんだよ! まさかハブにされてんじゃねぇか?
「まあ細かいことはいいじゃない」
「全然細かくねぇよ!」
親の仕送りあるから経済的には大丈夫だけど、姉貴のポケットマネーには大きく影響すんじゃねぇの!?
「それより早く来てよ」
「んだよ…」
またお宝本隠したりとか余計なことしたんじゃねぇだろうな。
姉貴は俺をダイニングへと通した。
「なっ…!」
俺の視線を釘付けにしたのは、ジョッキに注がれた変な液体だった。小学生の時に滅茶苦茶に色を混ぜて作った色に似ている。あと何かキムチ臭い。
「プレゼントフォーユー!」
「いらねぇ!」
どう見ても汚物じゃねぇか!
「見た目ちょっとアレなのはチョコレート入ってるからよ。きっと甘辛い素敵な味になってるわ」
「甘辛いってなんだよ! 醤油砂糖か!」
「いんや、チョコレートとキムチ」
「この匂いやっぱキムチか!!」
学校じゃボケ倒してるっていうのに、姉貴のおかげで家じゃツッコミっぱなしだぜ…。
「まあいいから飲んでみなさいって」
「嫌だ! …ってそれを俺の口に近づけるんじゃねぇ!」
俺の言葉はバカ姉貴には届かず、どんどん汚物が俺の口に近づいてくる。
「さあグイッと」
「無理だっ! ってごばっ…」
姉貴の狂気を抑えきれず、ミックスジュースという名の汚物は俺の口に進入した。何かどろどろした物が喉を通過していく。ヘドロののど越しって多分こんなだなって思う。
味? もう甘いやら辛いんやら訳分からん。
ただ一言言えるのは…。
「まっずっ!!!」
取り敢えず俺はトイレへと駆け込んだ。
「おえぇぇぇー」
吐けっ! 吐くんだ俺っ! 胃が毒素を吸収する前に出来うる限り吐き出せ!
いくら姉貴でもマジ身体に悪いもんは入れてねぇだろうけど、食い合わせってもんがあるからな。
とにかく今は吐き出すことだけを考える!
と、姉貴がトイレの扉越しに話し掛けてきた。
「ねぇ、冷蔵庫空だから買い物付き合って」
で、俺が買い物付き合ったかって?
もちろんトイレに引き込もってボイコットしたさ。