第2話・両親
どうも統夜です。落ちてるエロ本を発見出来ず意気消沈の柏原を元気付け現在19時…。普段18時半には帰宅してる俺にとっちゃちょっと遅い帰還だ。まあ俺の親に限って小言聞かされることは…。
「統夜! 何時だと思ってるの!」
あった。珍しく母さんが玄関で仁王立ちしている。
何回か19時回った時があったがキツく言われたことなかったのに、今日に限ってどうしたもんか。
「ただいま。現在の時刻は19時3分だ」
「あらそう。ご飯もうすぐ炊けるわね」
怒ってたのにご飯の心配? 十年以上この人と親子やってるが、未だに精神構造が分からん。
「とにかく荷物置きに行っていい?」
「どうぞどうぞ…って待ちなさい!」
小言言ってたこと思い出したのだろうか。
「一回遅くに帰ってきた息子を叱ってみたかったの。ありがとう」
実の母親が親指立てて極上スマイルを見せてくれた。さて、19時は「遅い時刻」に含まれるのか。息子を叱ってみたかったってどんな神経してんだ。等々ツッコミどころがあるが、無視して部屋へ上がった。
かばんを部屋へ投げ出しリビングへ足を運ぶ。
全く、家に帰ってまでツッコミ役したかないっての。
「ただいま~。我が家の大黒柱のお帰りだぞ~」
父さんが帰ってきたか。今日はやけに早いな。
「おう、我が息子よ。帰ってたか。だが中二になったことだし、道草してタバコふかすぐらいしろ」
「あんな百害あって一利もないもん、吸う奴の気がしれないね」
自分の息子に何喫煙推奨してんだ。似た者夫婦って言うか…、とかく両親共にボケだから俺の休まる暇がない。
「百害あって一利無し…か。諺なんか使いやがって、品行方正にも程があるぞ!」
品行方正の何が問題だと言うのだろうか。確かに柏原と比べると真面目な方なんだろうけど。
「でもあなた、統夜ったら今日19時過ぎに帰ってきたのよ」
「なにぃっ!」
母さんめ、余計なことを…。
「その調子だ。たまには親らしいことするために、どんどんやれ」
何故に両親共に息子の非行を喜ぶのかね。まあちょっと帰るの遅くなった程度だけど。
「ようし今日は統夜の門限突破祝いだ。母さん、大盤振る舞いにしてくれ」
「じゃあベーコン焼こうかしら」
ショボっ! おかず一品増えただけじゃん! つかうちに門限なんて無いだろ。あと門限突破祝いってなんだ!?
「ベーコンか。塩コショウ振りまくったら酒の当てになるかね?」
未成年の俺に聞くな。
「知らないけど、塩分取りすぎで生活習慣病へ大きく前進しそう」
父さんは自分の腹部を見て台所へと消えた。
「鯖の塩焼きか…」
「ええ」
「塩分控え目でな」
「あら? いつも塩辛くないと酒の当てにならねぇって言ってなかった?」
「…いや、最近味覚変わってな。薄味でも呑めるようになった」
「そう、分かったわ」
あ、戻ってきた。そして自分の腹部を見つめ、明らかに落胆し座った。
「若い頃は無茶しても平気だったのになぁ…」
どうやら中年には中年なりに悩みがあるらしい。話の流れからして、塩分過多を注意されたんだろう。
「つかどうして塩分ねぇと酒が進まねぇんだ? 別にケーキとビールでも…。いや、これは無いわ」
居酒屋でケーキを当てにビール飲んでるリーマン居たらシュール過ぎる。
「鯖焼けたから、配膳手伝って~」
「よっしゃ行ってこい統夜!」
「へいへい」
俺は腰を上げて台所へと赴く。魚の焼けた良い匂いが俺の鼻腔をくすぐった。
「ご飯もよそって持ってくよ」
「ありがとう。本当に私たちの子供か疑いたくなるくらい、出来た子ね」
「そこは自信持ってよ」
反面教師の賜物だから…とは言わぬが花ってね。
お盆に乗せテーブルへと運び配膳していく。家族三人分並んだところで、父さんが音頭を取る。
「んじゃいただきます」
「「いただきます」」
やっぱ魚と白米は合うな…。
父さんは大人しく鯖をつついている。だが震えているような…。
「ええい! 生活習慣病がなんだ! 俺は太く短く生きるんだぁっ!」
父さんはそう叫んで冷蔵庫へダッシュした。
そして手にしたのは缶ビールと塩コショウの瓶。もはやアルコール中毒じゃん。肝臓に癌が出来そうで心配だな。
「統夜、塩分取りすぎたらどうなるの?」
「血圧上がる」
「うっ!」
父さんの塩コショウを持った手が止まる。
「まあ、血圧上がったらどうなるのかしら」
「動脈硬化して、そうなった場所によって色んな病気が起こるね」
「ううっ!」
ああ、悩みが無限ループに入ってるみたいだな。
「さらにお酒何か飲んだら大変じゃない?」
「動脈硬化に関係してるか知らないけど…」
あ、塩コショウ置いて缶ビールに手を伸ばしやがった。
「発癌率は跳ね上がるね。父さんタバコも吸うし」
「チクショォォォォォっ!!!」
父さんは雄叫びを上げ缶ビールを握り潰した。
って何やってんだこの人!?
「母さんタオルタオル!」
母さんは直ぐにタオルを用意し、こぼれたビールを拭き取りにかかった。
カッターシャツのまま父さんは食事をしていたので、右裾はびしょびしょ。脱衣場に直行した。
「ちょっと追い詰め過ぎたかしらねぇ…」
母さんは申し訳なさそうに脱衣場を見る。
父さんは日本人にしては酒強い方だ。その代わり内臓脂肪付きやすい傾向にある。まあ結果オーライかな。
ビールを拭く母さんを手伝いながらそう思った。