第17話・知将
とうとうタイトルまで…。どうも、前回からクラスの奴らから知将と呼ばれる柳谷統夜です。正直恥ずかしくて仕方がない。
五限目で種目を決めてしまったので、六限目はどうするのだろうか。
「あぁ、そうだ。一つお前達に言い忘れたことがある」
HRでは珍しく、担任に視線が集まった。
「今年は優勝した組には優先してストーブが配備されるそうだ。まあ頑張ってくれ」
担任はそう言うと、窓を眺め始めた。どうやらこれで話は終わりらしい。
にしてもストーブか。こいつがあるとないとでは冬場の授業のモチベーションが桁違いになる。
つか全クラスにストーブくらい配備出来るようにしようぜ。
「ストーブだってよ」
「ああ、あれが無いと冬越せないからな」
「俄然やる気が出たぜ!」
まだ残暑の厳しい中ストーブでここまで士気が上がるとは。嬉しい誤算として受け入れる方が得策か。
実はまだ男子には決めねばならないことがある。男子全員参加が義務付けられている騎馬戦の騎馬決めだ
「んじゃ、勝てるように騎馬戦決めるか」
「おお、また知将が動いたぞ」
「ああ、彼の戦略眼に間違いはないからな…」
何か似たようなことばっか言われてる気がするのは気のせいか?
まあいい。とにかく今は騎馬だ。
騎馬戦は二回戦あり、一回戦は取った帽子の総数を競い、二回戦は相手の大将の帽子を取った方が勝ちというルールだ。そして騎馬戦は他の組と合同でチームを組む。そのため他の組との打ち合わせが必要なのだが…。
「体育委員、今年は何組が赤か白か分かるか?」
「ああ、昨日決まったよ。今年は奇数偶数で組分けで、奇数が赤、偶数が白だって」
始業式早々お疲れだな。おかげで戦略も練れるわけだけど。俺達は一組だから、組むのは三組か。
さっそくコンタクトを取るか。
「委員長、三組と騎馬戦の打ち合わせしたいんだが、この教室を使っていいか?」
「構いませんよ。女子の方は終わりましたから」
「ありがとう」
委員長に許可を取った俺は三組に友達の多い奴を大使として送り出した。この方がすんなりと協力を得やすいだろう。
暫くすると、ぞろぞろと三組の男子達が一組に入ってきた。
「むさい…」
「文句言うな」
今回ばかりは柏原の言うことも分かるが。総勢四十名の男子が一つの教室に集まると、少しキツいものがある。
「そっちは騎馬決まった?」
「ああ、他がわりとスムーズに決まったからよ。もう騎馬も決めちゃえって感じで」
別に騎馬を決めた経緯は聞いてないが、頷いておいた。早速騎馬を組んだ面子を見せてもらう。
「なるほど…」
見た感じ運動部とインドア派で騎馬が別れていた。要は仲が良い者同士で組んだようだ。なら大将は三組に任せよう。
三組にその旨を伝えると、快く引き受けてくれた。
後はこちらの騎馬の編成だが…。
俺は先程のどの種目に誰が出るか書かれた用紙を見た。駄馬は生まれるが、このままでも行けそうな気がした。それに同じ騎馬を組むことで、各種目の連帯感も出るだろう。
「一組はこの種目別に騎馬を組みたいと思う。いいだろうか?」
「まあ、知将の采配だからな」
「ああ、彼の戦略眼に一点の曇りもない」
さっきから言ってる奴マジで誰?
他の奴がついていけているか不安になったが、俺の提案通り騎馬を組んでくれた。
「こいつ、知将って呼ばれてるのか…」
「まさか一組にこんな逸材がいたとはな」
他所のクラスにまで一目置かれるようになった!?
そんな大層な人物じゃないんだが俺は…。まあ悪い気はしないからいいや。
「情報が集まり次第、体育祭本番前に一度はミーティングがしたい。いいか?」
「ミーティングか、何かカッコいいじゃん」
柏原が乗り気になってくれた。すると皆が頷いてくれた。この士気の高さなら上手くいくだろう。
「ストーブを手に入れ、暖かな冬を過ごすぞ!」
おう! と皆が拳を振り上げた。わりと気持ちがいいものだった。
「あの、そろそろいいでしょうか?」
ひょっこり委員長が顔を出すと、俺は途端に恥ずかしくなった。
騎手を誰がするか決めてもらい、その場で解散となった。
と言っても三組が自分の教室に戻っただけだが。
ちなみに俺は騎手にさせられた。当日も指揮に専念してもらいたいそうだ。広いグランドで指示を飛ばすことは、俺には出来そうにないんだが…。あと原田と柏原、それに天野も騎手になった。まぁ天野に馬は無理だろうからな。
「本来ならオール五の僕が指揮を執るべきなのだが…。まあ柳谷なら任せられるな。はーっはっはっは!」
「ああ。精々エースとして頑張ってくれ」
まぁ運動部に所属していないから、相手から見ればダークホースとなるかもしれないが。
「僕がエース?」
「一組のリレー組が馬で、騎手が体育五のお前だ。他に誰がエースを務めるよ?」
事実一組の騎馬の中では一番の性能を誇るだろう。
「僕がエース…。よかろう! 我がクラスの知将の期待に応えてみせよう!」
天野は高笑いして席に戻っていった。
「さすが知将、人心掌握もお手の物だな」
「人聞きの悪いことを言うな」
扱い易いとは思ってしまったが。あの手の輩は誉めておけば頑張るし。
「何にせよ、これで赤組のストーブは決まりだな。女子も強いしよ」
柏原の言う通り、俺達のクラスは奥井を始めとした女子の運動神経は高い。多少男子の成績が奮わなかったとしても、女子が取り戻してくれるだろう。
「にしても意外ですね」
委員長がふらっと話かけてきた。後ろに奥井の姿も見えた。
「何が?」
「柳谷さんが体育祭にそこまで真面目に取り組むとは思いませんでした」
「本当にそうよね。てっきり適当にやり過ごすものだと思ってた」
委員長と奥井には俺がドライな人間に見えていたようだ。基本的にそう思われて差し支えない。だが、俺だって面白いと思えば乗っかることもある。そういうことをクラスの女子に話すのは、なんとなく恥ずかしい。
「俺だって、ストーブのある教室で授業受けたいからな」
だから俺はとりあえずこういうことにしておいた。
「気障ですね」
思い切り後悔した。