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第13話・栞のバイト

 どうも、皆のお姉さん柏原栞です。夏休みでバイトいっぱい入れるし、お金稼がなきゃね。

 そんな訳でバイト行ってきます!



 私がバイトしてるのは何と喫茶店。ぶらっと入って、私が何となく気に入って店長に頼み込んでバイトに採用してもらった。で、採用してもらったはいいんだけど…。



 「全然人来ないですね~」

 「まあ何時ものことだけどね」

 私の呟きに律儀な応えたのは店長の中原雅樹さん。見た目はちょっと童顔だけど普通。でも私の大学の勉強見てくれたり、他の学生がここで勉強するのを見逃したり優しい。何でも昔喫茶店で小説書くのに憧れた友達がいたらしく、何か作業するのに寛容になったそうだ。

 でもおかげで常連客しか来ないんだよね。昔馴染みの店ってわけでもないし、結構経営ヤバいんじゃないかとたまに、いやよく思う。

 「そういや梨香さんはどうしたんですか?」

 「買い出しに行かせてるよ」

 梨香さんは店長の奥さんで、どうして結婚したのか分からないくらい美人。一回訊いてみたけど、恥ずかしがって答えてくれなかった。その時の梨香さん可愛かったな~。

 「ただいま~」

 「お帰りなさい、梨香さん!」

 とか思ってたら本人が帰ってきた。うん、いつ見ても美人だ。

 「ああ、来てたんだ。何故?」

 「何故ってやだな~。アルバイトに決まってるじゃないですか」

 梨香さん美人だけど私に対して何だか意地悪。好きな子ほどいじめたくなるって奴だと私は確信している。

 「全く…。お客さん来なくてただでさえ家計は火の車なのに…。はぁ~」

 「ちょっと、私見て溜め息つくの止めてくれません?」

 やっぱ少し傷つく。出費ばかりが嵩むストレス社会のせいだと思い込もう。

 「まあ来ちゃったもんは仕方ないか…。さっそくだけど買ってきた物、運んでくれる?」

 「分かりました!」

 私は梨香さんから買い物袋を受け取った。店で使う物は業者に発注しているので、梨香さんが買ってきた物は全部夫婦で使う物。というわけで荷物は全て二階の店長宅に運ぶことになる。これって喫茶店のバイトのうちに入るのかな?

 「そうそう、今日トイレットペーパー安かったわ」

 「本当ですか!? 帰り買ってこっかな」

 弟と二人暮らしだとこういう情報は重宝する。大学の友達同士じゃ出来ないしね。

 「なら今すぐ買って来るといいわ」

 売り切れないうちにそうするべきかも。って…。

 「ダメですよ! 今日は4時までシフト入ってるんですから」

 「ちっ!」

 どれだけバイト代出すの嫌何だろうこの人…。私が知る中で一番の守銭奴だよ。

 「時給三百円とかになんないかしら…」

 「大幅に最低賃金下回ってますけど…」

 何かと人件費削減に迫ってくる。もう慣れたし、私は梨香さんのコミュニケーションの一環だと思うことにしてる。

 取り敢えず下に降りるとお客さんが来ていた。

 「あ、栞ちゃんバイト入ってたんだ。久しぶり~」

 この人は常連さんの酒井美緒さん。店長や梨香さんの同級生で小説家。二十代後半とは思えない可愛らしさの持ち主。ちなみに喫茶店で小説書くのに憧れた友達じゃないらしい。

 「相変わらず可愛いですね」

 「あら、こんなオバサンからかっても何も出ないわよ~」

 やべぇ、鼻から赤い衝動が…。私が男だったら嫁にもらってるね。間違いなくプロポーズしてるね。

 「梨香さん、酒井さん持って帰っていいですか?」

 「ダメよ。私だって我慢してるんだから」

 鬼の守銭奴梨香さんでも、酒井さんの前では骨抜きにされてしまう。

 全く罪な女だぜ…。

 「お前ら客にハァハァすんの止めろ。あとそのワキワキしてる手を引っ込めとけ」

 店長に指摘されて、初めて自分が変質者の手付きをしていたことに気付く。

 「店長、もう少しで戻れない一歩を踏み出すところでした」

 「そうか。じゃああと百歩ほど下がって仕事しろ」

 店長はたまに鋭いツッコミを飛ばすことがある。どうも昔ツッコミ役だったみたい。

 「はいエスプレッソお待ち」

 「ありがとう~。喫茶店来たからにはコーヒー飲まなきゃね~」

 「序でに昼飯も食べてくれ。ランチタイムなのにご覧の有り様だ」

 ファミレスじゃないから、お客様で溢れ返ってる状況はノーサンキュー。だけど、来るお客様の大半が コーヒー一杯だけって状況もノーサンキューだよね。単価が安すぎるし。

 「私みたいな売れない小説家じゃ、とても外食なんて出来ないよ。もうちょっと安かったらいいんだけど」

 何となく喫茶店のメニューってファミレスとかと比べると若干高い気がしないでもない。一応完全な主観だとフォローしとく。誰に対してか分かんないけど。

 「印税入ったら大盤振る舞いするよ」

 「期待して待ってるよ」

 そう言って店長は伝票を酒井さんの側に置いた。

 酒井さんがベストセラー書くのと、この店が潰れるのどっちが先だろう…なんて野暮なこと考えちゃいけない。

 「美緒ちゃん…、絶対売れてね」

 梨香さんは酒井さんの手をぎゅっと握った。

 「梨香ちゃん…、目がマジ過ぎて頷けないよ」

 数少ないお得意様の前に、親友同士のはずなんだけどなぁ。

 「でも、私の給料にも関係するし、売れて下さいね!」

 「その声援じゃ、素直に頑張れないなぁ…」

 ですよね。


 …とまあこんな感じに、私のバイト先はゆるゆるとしています。



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