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第10話・賄賂

 嫌味なほど太陽が頑張り日射しが強く、先の方を見れば陽炎なのか歪んで見える。暑さを演出するにはこれで十分なのだが、蝉の声が拍車をかけるように暑さを醸し出していた。

 シャツが身体中から噴き出す汗を吸い気持ち悪い感触を生む。

 「だぁーっ!!! やってられるかぁーっ!!!」

 そう叫び柏原は匙を投げた。実際に投げたのはトングなのだが。

 さて俺達が一体何をしているかと言うと、前回の話を汲んでボランティアのゴミ拾いである。死んだ時のために一つくらい善行しようと思ったのだが…。やはりこの炎天下の中ではちと辛い。

 喚く柏原の側に委員長がやってきた。そして何か呟いた。

 「生写真…」

 「はっ!」

 「あまりお粗末な仕事だと、報酬の方が…」

 「わ、分かった…。その代わり…」

 「ええ、御見せした写真はもちろん、プラスアルファでご用意させていただきます」

 柏原はトングを拾い、キリっと良い顔をした。

 「暑さがなんだ! やってやるぜぇっ!!」

 何やらよく分からないが柏原はやる気を出し、タバコの吸殻のような小さな気がつきにくいものまで徹底的にゴミを拾い始めた。

 「一体何で釣ったんだ…?」

 「さあ? どうせエッチな本とかでしょ」

 独りごちたつもりが奥井の耳に届いていたらしい。

 「ホント、バカみたいよね。エッチな話で一喜一憂しちゃってさ」

 中学生男子なんて皆そんなもんだと思うが。俺は変に老熟しているところがあるが、全く興味がない訳じゃない。

 「で、柳谷はなんで手伝う気になったの? 綾が手を回したように見えなかったけど…」

 まあ実際に手を回されなかった訳だしな。

 「俺だけ手伝わないってのも後味悪いし。あの場じゃああ言うしかなかったよ」

 「ふ~ん」

 奥井は感心して頷いて、俺を見た。

 「柳谷って友達思いなんだね」

 思いもよらない言葉に俺は思考を止めた。別にあいつらのためにゴミ拾いをしようと思ったわけじゃない。むしろあの場で断ったら俺の株が下がるんじゃないかと、自分のために手伝ったニュアンスの方が強い。

 「買いかぶり過ぎだ」

 俺はその旨を奥井に伝えようとした。

 「照れなくてもいいじゃん」

 だがこう言われ遮られてしまった。友達思いと言われて、素直に受け止められるほど、俺は大人じゃない。

 「…さっさとゴミ拾いしなきゃな」

 そう言って俺は奥井から逃げた。

 「柳谷、こいつを見てくれ」

 「あ?」

 原田が指差したのはペットボトルのゴミだ。特に注目する点なんざ無い…よな?

 「蓋に応募券が貼ってある。悪いがこれがあったら僕にくれ」

 確かによく見れば、何か貼ってあった。しかし泥付いてるし、これ有効なんだろうか…。

 「あ、原田さん。応募券ありました」

 「何っ!? 委員長直ぐ行くぞ!」

 原田は委員長の元へ飛んで行った。

 こんなゴミ拾いでも楽しみがあるんなら、まだ柏原よりいいか。

 「お、こいつは…。エロDVDのパッケージ!」

 何やら柏原がこそこそしてるな。どうせエロい何かを見つけたんだろうが。

 「ちっ、中身無しかよ…」

 舌打ち? あんまり内容が良くなかったのか?

 「いや待て、近くに中身が落ちてるかもしれねぇ!」

 あ、また何か頑張り出した。何か探してるみたいだな…。

 「あった! …ってボロボロじゃねぇかっ! これじゃ再生もままならねぇぜ…」

 喜んだり落ち込んだり忙しい奴だな。

 「…ホントあんたって年中頭がピンク色ね」

 「げっ! 奥井っ!?」

 「中学生男子なんてそんなもんよね~」

 「や、止めろ~っ!! そんな目で俺を見るなぁっ!!」

 柏原は泣きながら、いや実際には泣いてないけど、ともかく奥井の元を去っていった。遠目からでも何が起きたか簡単に想像がつくな…。



 「お疲れ様でした。ゴミの方は学校のゴミ置き場までお願いします」

 「「「へ~い」」」

 俺と柏原と原田はゴミ袋をゴミ置き場まで運びに行くことになった。お願いしますの時に何故か自然にゴミ袋を二人から受け取ってたんだよな。人使うのに慣れすぎだろ…。

 「ふっふっふ。応募券が葉書一枚分になった。フィギュアは頂きだ」

 原田は何かのアニメのフィギュアの応募が出来てご満悦だった。

 「あ~あ、パッケージは捨てることなかったかな…」

 こっちは何の収穫もなかったようだ。

 「お前ら賄賂あるんじゃなかったのか?」

 「おうそうだった!」

 柏原は途端に元気になった。浮き沈みの激しい奴だ。

 「柳谷、お前もいるか?」

 「何を貰えるか知らんが、俺はいらん」

 「そうか? なら一足先に委員長に接触しなきゃな…」

 そう言うと柏原はダッシュで委員長の元へ向かった。

 「原田、お前はいいのか?」

 「後で個人的に貰える算段になってる」

 「あっそ」

 オタク趣味同士随分と仲良くなったようで。




 ウキウキ気分の柏原です。授業中一度も拝めなかった女子の水着姿が拝めるとなりゃ、そりゃウキウキもするってもんだろ!

 「おーい、委員長!」

 「おや、もう戻ってきたんですか?」

 「帰宅部のくせに無駄に体力あるわよね」

 「げっ、奥井…」

 こいつ居るの忘れてたぜ…。

 「ではさっそく例のぶつを…」

 ってどうして今出そうとしてんだ委員長!?

 「わぁっ!? 待て待てここじゃ…」

 例のぶつは封筒に入っているようで、奥井はそれを委員長から取った。

 「これでこいつを釣ったの、綾?」

 「そうなりますね」

 何をしれっとしてんだ委員長ーっ!!

 奥井は封筒の中身を取り出し、それを見た。その姿は嵐の前の静けさだった。

 「綾、どうして私のプールの授業の写真がこんなところにあるのかしら?」

 「どうしてでしょうね」

 だからどうしてそんなにしれっとしてんだっ!?

 「で、柏原はこれに釣られたんだ?」

 「あ、あはは何のことでしょうか? お、俺は地域のためを思って…」

 「問答無用っ!」

 「ひぃっ!!」

 「成敗っ!!!」

 「ぎゃあっ!!」

 奥井の蹴りが俺の腹に決まったっ!!!

 食後なら中身全てをぶちまけてる自信があるほど痛いっ!!!

 俺はその場に倒れた。

 「すみません、やっぱりこのような写真を流出させるわけにはいかないので」

 「そうよね、綾。当然全部処分してくれるのよね?」

 「…では私はこれで」

 「待ちなさい綾っ!!」

 薄れゆく意識の中で俺は思った。

 逃げ切れ委員長っ! と…。


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