第1話・中二
こんな中学生いないだろ、と思うかもしれませんが、暖かい目で読んでいただければ幸いです。そして笑っていただければなお嬉しい限りです。
世の中には中(厨)二病という言葉がある。主に痛い方々に使われるらしい。よく知らないが要は中二が一番ぶっ飛んでてバカってことだろう。まあその評価を俺は否定しない。少なくとも俺の周りではそれは限りなく事実だからだ。
「大艦巨砲主義! 大は小をかねる! やっぱ巨乳が一番だろ!」
「柏原、君はやはり時代遅れだな。世はちっぱいブームだ。胸は無ければ無いほどいい」
「んなもんオタクだけだろ! 今も昔も変わらない魅力が巨乳にはあるんだよ!」
俺の目の前でアホな議論で火花を散らしているのは、残念ながら幼なじみである。
巨砲主義のいかにもスケベそうなのが柏原湧。中二と言えばこんなのというのを地でいくバカである。
で、まな板に豆主義なのが原田政明。アニメに関する英才教育を受け、オタクを地でいくバカである。
そして俺が柳谷統夜。暴走する友人達にツッコミを入れる苦労人。
「では柳谷氏。君はどう思う?」
「そうだ、さっきからだんまりはずるいぞ!」
何がずるいか全然分からん。でもこんな議論に真面目に参戦する気も毛頭ない。てか…。
「オープニングから何とんでもねぇ議論繰り広げてんだお前らはっ!」
いきなり下ネタから入ったらもうネタ無いのかと思われるだろ!
「仕方ねぇだろ。中二なんて下ネタくらいしか考えることねぇんだから」
もっと他に考えることあるだろ。自分の中二観だけで語るんじゃない。
「下ネタとは心外だな。僕が語っているのは現代における女体の神秘の追求…、いわば芸術なのだ!」
盗撮見つかった時の言い訳にしか聞こえない。お前のフェチイズム何か芸術評価してもらえるか!
「下ネタにしろ神秘の追求にしろ、他に話すことねぇのか? 勉強のこととか」
勉強というワードに柏原は明らかに難色を示した。こいつは滅茶苦茶勉強が嫌いなのだ。
「俺は分数で数学を諦め、そしてbe動詞で英語を諦めた男だぜ? 勉強で語ることなどない!」
分数は算数の範囲です。
「同感だな。そんなことに脳の容量を使うなら、一つでも多くのゲーム、アニメを網膜に焼き付ける!」
ダメだこいつら。進路先は確実にバラバラだろうな。別に俺が頭いいと言ってる訳ではないが、ここまで勉学を軽んじていない。
「まあ中三から頑張ればいいんだよ。高校が見んのはそっからの成績なんだからよ」
悪いが中三から勉強頑張る柏原を全く想像出来ない。
「よっぽど優秀な家庭教師とワンツーマンくらいしなきゃ無理そうだな」
「え、美人家庭教師とワンツーマン!?」
誰も美人なんて言ってない。
「やべぇな、勉強どころじゃ無くなるぞおい!」
柏原の頭の中では既に美人家庭教師が来ることになってるらしい。
「心配する必要はない。既にそのパターンは経験済みだ」
「マジか!?」
「ゲームで」
「やっぱりかよ!」
勉強が脳の容量の無駄とか言ってる奴に、家庭教師なんてもったいなくて雇ってられんわな。
「貸してやろうか?」
「…お願いします」
「借りるんかい!」
思わず声出してツッコんじゃったよ!
「ち、違うからね。別にエロいの期待してるわけじゃないからね」
よしエロいの期待してるんだな。心配しなくても、お前はそういう奴だって思ってるよ。
つかまだ中二なのにエロいゲームが手に入るわけが…。
「ネットショッピングで年齢偽って手に入れた。柏原氏の期待に応えられるだろう」
「応えちゃダメだろ!」
宅配の兄ちゃんも年齢確認しようぜ! 酒とかタバコは厳しく年齢確認するくせに!
まあ宅配の兄ちゃんが酒タバコの確認してるわけじゃないけど。
「つか柏原の姉ちゃんって大学生だろ? 家庭教師してもらえばいいじゃん」
第一話で実はもへったくれもないが、柏原には姉貴がいる。確かそこそこの大学に入ったはずだ。
「お、恐ろしいこと考えるんじゃねぇ! 姉貴に勉強教えてもらったら、条件に何を言い出すか分かったもんじゃない!」
俺や原田の前では普通の優しいお姉さんなのだが、弟の前では違うらしい。
「だからこそ、ゲームで夢を見ればいいんだ。美人家庭教師とのシチュエーションは誰もが憧れる」
いや、憧れた覚えがない。
「実際に家庭教師頼んだって男が来るか中途半端な女が来るに決まってる!」
失礼なこと言うな!
「ならゲームの中でくらい、好みの美人家庭教師で教えを請いたいじゃないか」
二次元至上主義のお前なら大満足だろうが、三次元至上主義の柏原は微妙だろう。
「そうだな…。姉貴に頼むくらいなら、せめてゲームで夢見るか」
あっさり陥落してる!?
「落ち着けぇっ! そもそも家庭教師なんか例え話なんだから、他に勉強法を考えりゃいいんだ!」
「「あれ、勉強する話だっけ?」」
どうして二人共疑問符付けて返してくるかな!?
「俺は家庭教師でも付けなきゃお前は勉強しないだろって意味で言ったんだ。なのに美人家庭教師がどうのと勝手に妄想宣いやがって…」
と、愚痴っているのに関わらず、柏原はポカンとしていた。
「…宣うってなに?」
俺は言葉を失った。ああ、中二だし普通分からないよな。
「辞書引け」
「持ってない」
だからお前はアホなのだっ!
「とにかくもう帰ろう。夕方六時代のアニメが始まってしまう」
君の世界の中心はアニメか!
そうだ!…と即答しそうで怖い。
「ちっ、中学生にもなって六時に家に帰りやがって…。付き合い悪いぞ」
帰宅部の俺らにとっちゃ妥当だろ。つか放課後から二時間以上話してた計算になるから、充分付き合いはいい方だと言える。
つかそんなに中学生らしいことしたいなら…。
「じゃあ校舎の裏で煙草でもふかすか?」
「見つかれば逃げ場もない~。って尾〇豊か!」
来年なら丁度良かったんだけどな。
「俺はそんな前時代的な中坊になりたかねぇんだよ!」
いや、下ネタに走る当り充分前時代的な中坊だよ?
「では中坊のニュータイプたる僕は忙しい。失敬する」
そう言い残して原田は帰っていった。タバコにハマるよりアニメの方が健全かもしれないが…。
「何がニュータイプだ。仕方ねぇ。エロ本落ちてないか探しながら帰るか」
落ちてるエロ本探すってタバコ以上に前時代過ぎるだろ。
とかく俺と柏原は帰路に着いた。
思考の極端な奴二人に挟まれ、気苦労の多い毎日を送っているが、案外嫌いじゃない。
それはやっぱり、俺自身もバカだからだろう。