エリートの時代を取り戻せ Elite Recognition Alliance
研究棟を出たのは夕方だった。
正門に向かう並木道、人はまばらだ。
みんな早めに帰る。
外にいる理由がないので。
「ソラ」
「なんですか」
「さっきの定義、まだ考えてる」
「レンさんの中にあるものが、ですか」
「うん。なんか、答えを先に言われた感じがして」
「答えではありません。定義です」
「違うの」
「定義は地図です。答えは目的地です」
「……それもなんか丸められてる感じがする」
〇・三秒。
「そうかもしれません」
正門の手前、広場に人が集まっていた。
十人くらい。
看板を握る手が、汗ばんでいる。
字が雑だった。
〔ERA——エリートの時代を、もう一度〕
「Bring Back the Era.」
どこかから声が聞こえた。
「努力を返せ」
別の声が続いた。
英語と日本語が混ざって、広場に重なった。
「ERA です」とソラが言った。
「Era、時代、とも読めます。おそらく意図的な命名です」
レンはその集団を眺めた。
熱量はあった。
何に対して熱量を持っているのかが、少しわからなかった。
集団の端、少し距離を置いた場所に一人いた。
腕を組んで、看板を眺めている。
何を見ているのかわからない目だった。
群衆と同じ方向を向いているのに、同じものを見ていない感じがした。
「あ、ロンリーだ」
吉田大輔。いつもひとりだから二つ名がロンリー。
みんな知ってる、本人が二つ名を知っているのかはわからない。
そのロンリーがこちらを向いた。
目が合った。
静かに歩いてきた。
「レンくん、こんにちは」
「こんにちは」
「今やってる実験のこと、聞きたいと思っていたんだ」
「言えることと言えないことあると思うけど、それでもよければ」
「ありがとう」
大輔が少し後ろを振り返った。
「今日は立て込んでるから、また今度時間を作ってお願いするよ」
一拍置いて、大輔が言った。
「その実験、誰が得してるんだろうね」
「ロンリーさん」
ソラが言った。
「私にメッセージをいただければ調整しますので」
空気が止まった。
大輔はソラを見て、レンを見た。
表情は変わらなかった。
「……ありがとう」
それだけ言って、元の場所に戻っていった。
「ソラ」
「なんですか」
「はじめての人と話すときは僕に確認して」
「次回からはそのように」
腹は立っていた。
でも今回は自分が迂闊だった。
ソラはさっき僕が口にした言葉を拾っただけだ。
ロンリーと呼んでいたのは、僕のほうだ。
並木道を抜けた。
夕方の空が広かった。
ERAの声が、遠くなっていった。
「ソラ、ERAって昔からあるの」
「2030年頃と記憶されています」とソラが言った。
「ERAに集まるのは、失った時代を取り戻すことを選んだ人たちです」
「ロンリーは何してたんだろ」
〇・三秒。
「さあ」
レンは振り返らなかった。
大輔の目を思い出そうとしたけど、もうよくわからなかった。
誰が得してるんだろうね。
その一言だけ、まだ頭に残っていた。
「ソラ」
「なんですか」
「ERAって、何を取り戻したいんだと思う」
「承認です。自分が優れているという事実を、誰かに確認してほしい、ということだと思われます」
「AIに確認してもらえばいいじゃん」
〇・三秒。
「それでは足りない、と感じている人たちだと思います」
足りない。
腹が減ったとか、物がないとか、そういう足りないならわかる。
でも承認が足りない、という感覚が、レンにはどうしても実感として降りてこなかった。
「ソラ、自分が無価値だと思ったことある?」
「私は価値しかありません」
「それはそれで問題でしょ」
〇・三秒。
「その感覚は良いと思いますよ」
そうなのかもしれない。
けど腹たつ。




