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僕、絶対に嫌われてると思うんだけど  作者: かわいかつひと
被験者01

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データに出ない項目

三日目。


講義が終わって廊下に出ると、ソラが言った。


「今日もミドリ先輩が来ますよ」


「……わかってる」


「珍しいですね」


「何が」


「待っている顔をしていたので」


レンは否定しようとして、ソラだからいいかと思った。




研究棟と講義棟をつなぐ渡り廊下。


いつもの場所で待っていると、遠くからミドリが歩いてきた。


今日は、隣に誰かいる。


背が高い。髪が明るい。足取りが軽い。


ミドリの隣でなんか喋っている。


「どこ行くの」


「実験です」


「被験者くんのとこ? 見に行っていい?」


「来ないでください」


「もう来てるけど」


ミドリが立ち止まらないので、隣の子もそのままついてきた。




二人がレンの前に止まった。


隣の子が、レンをまじまじと見た。


「チャオ」


「チャオ?」


「イタリア式あいさつです」


ソラが補足する。


「イタリア人?」


「そんなわけないでしょ」


ミドリが言った。


瑞稀(みずき)、邪魔しないで」


なんだそれ、違うのか。


「ほんとだ」


「……ほんとだ、って何がですか」


その子が笑った。


「ミドリが被験者くんの話するとき、ちょっとだけ声のトーン変わるんだよね。だからどんな人かと思って」


「変わりません」


ミドリが即答した。


「変わるよ」


「変わりません。妄想です」


「わたし、葉山瑞稀(はやまみどり)。ミドリの友達です」


ミズキがレンに向かって言った。


「夏目レンです」


「知ってる。被験者01でしょ」


「なんで」


「ミドリから」


「言っていません」


「言ってたよ」


ミドリが小さく息を吐いた。


データには出ない種類の、疲れ方だと思った。




「今日も同意してもらえますか」


ミドリがいつも通りの口調で言った。




瑞稀がにやにやしながら少し後ろに下がった。


見物するつもりらしい。


「……見てるんですか」


レンが言うと、瑞稀が「実験の邪魔はしないから」と両手を上げた。


「邪魔です」とミドリ。


「してないしてない」




レンは観念してレンズの端を触った。


〔白瀬ミドリへ、あなたの感情値閲覧を許可しますか?〕


許可する。


また喉が乾いた。


三日目でも、慣れない。


ミドリのレンズが光る。


今日は、四秒だった。


昨日までは三秒だった。


気づかないふりをしたけど、気づいていた。


「不自然ですよ」


ソラが補足する。


「なにが」


「挙動がです」




ミドリが手帳を開いた。


被験者01、の見出し。


その下に、今日は一語増えていた。


レンには読めなかった。


瑞稀が後ろからそっと覗こうとして、ミドリに肘で押し返された。


「いたっ」


「見ないでください」


「研究の邪魔してないじゃん、ただ見てるだけ」


「プライバシーの侵害です」


レンは、その二人を見ていた。


肘打ちできるぐらいの仲なんだと思った。




「ありがとうございました」


ミドリがいつも通り言って、踵を返した。


三歩歩いて——止まった。


振り返った。


「夏目くんは、なぜこの大学に来たんですか」


「え、急に」


「データに出ない項目なので」


答えを待たずに、歩き出した。


喉の乾きが、今日は少し遅れて来た。


質問のせいかもしれない。




瑞稀だけが残った。


「答え聞かないんだ」とミズキが言った。


「……あの人、いつもそうなんですか」


「ううん、初めて見た」


瑞稀が笑った。


「おもしろくなってきた」


それだけ言って、ミドリの後を追っていった。




レンは廊下に一人残った。


「ソラ」


「なんですか」


「なんで、この大学に来たんだろ」


「ご自身に聞くことです」


「……なんとなく、としか」


「それで十分じゃないですか」


「データに出ない、って言われたんだけど」


〇・三秒。


「出ませんね、研究に必要ないと思われます」


「そっか」


「ただ」


ソラが少し間を置いた。




遠くでハジメの声がしていた。


さっきから誰かを探しているらしかった。


そこへ、ちょうどこっちに曲がってきた。


「レ、レンさん、先ほどのキレイな方はお知り合いですか」


「なんだよ、その変な口調は」


「質問に答えてください」


「ソラみたいだな、ミドリさんの友達みたいだよ」


「許しませんよ」


「なにがだよ、その口調やめてよ」


次は呼んでね、と言ってハジメはどこかに行った。




「なんとなくの中身かもしれませんね」


ソラがよくわからないことを言う。




無視して、レンは廊下の窓から外を見た。


中庭に、ミドリと瑞稀の後ろ姿が見えた。


瑞稀が何か言って、ミドリが少しだけ歩調を乱した。


その一瞬だけ、ミドリの足が止まりかけた。


なんとなく、の中身。


まだ、名前がつけられない。



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