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僕、絶対に嫌われてると思うんだけど  作者: かわいかつひと
被験者01

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2/16

「被験者番号01の観察記録」

翌朝。


レンが研究棟の廊下を歩いていると、前から白瀬ミドリが来た。


今日も足が速い。


手帳を抱えている。


目が合う——と思ったら、今度は逸らさなかった。


むしろ、まっすぐ来た。




「夏目くん」


声をかけられた。


名前を知られていたことに、一瞬驚く。


名簿か、被験者リストか、それともソラ経由か。


聞けなかった。


話が先に進んだから。


「昨日のリクエスト、なぜ同意しなかったんですか」


開口一番それか。


「……えっと」


「データが取れませんでした。実験の記録に支障が出ます」


ミドリの口調は、完全にフラットだった。


怒っているわけでも、責めているわけでもない。


ただ、事実を述べている。


ああ、そういうことか、とレンは思った。


研究のリクエストだったんだ。


昨日から気になってたけど、そういうことだったんだ。




「すみません。なんか、ちょっと迷って」


「迷った理由は?」


「……見えたら、見ちゃうなと思って」


ミドリが一瞬、止まった。


「それは感想ですか。それとも主張ですか」


「え?」


「見てしまうことの、何が問題なのか聞いています」


レンは少し考えた。


「なんでもわかることが、いいことだとは思わない」


「根拠は?」


「根拠って言われると……ないですけど」


「では感想ですね」


ミドリは手帳を開いた。


レンの返答を書き留めているらしい。


なんか、実験動物みたいだな。とレンは思ったが、言わなかった。


「今、同意してもらえますか。一分で終わります」


「今ここで?」


「問題がありますか」


問題は、特にない。


ただ、廊下の真ん中でやることか?とは思う。


「……わかりました。一回だけ」


レンがレンズの端を触る。


〔白瀬ミドリの感情値閲覧を許可しますか?〕


許可する。


その瞬間——ミドリの指が、一回だけ止まった。


手帳のページをめくりかけて、止まった。


ほんの一秒。それだけ。


すぐ動いた。何もなかったみたいに。


ミドリのレンズが、わずかに光った。


今、俺の数値が向こうに出ているんだろう。


喉が乾いた。


数値は見えない。


でも、見られていることはわかる。


こっちは何も見えないのに、向こうには全部出ている。


その感じが、じわじわと——なんか、落ち着かない。


ミドリは三秒、レンズを見た。


それから手帳に何かを書いた。


レンに見えたのは、被験者01、の見出しだけだった。


数値なのか、単語だったのか。




「ありがとうございました」


それだけ言って、ミドリは行ってしまった。


足が速い。振り返らない。


レンはしばらく、廊下に突っ立っていた。


「ソラ」


「なんですか」


「被験者01って書いてあった」


「オンリーワンですね」


オンリーワンならいいか。


「僕、今どんな数値だったと思う」


〇・三秒。


「数値を知って、レンさんは何をしたいんですか」


「いや、別に」


「では、気にしなくていいと思います」


腹たつ。


でも、反論できなかった。


白瀬先輩は、僕の感情値を見た。


僕には、何も見えなかった。


それから——名前を知っていた。


最初から。


あれは、なんで知ってたんだろう。


食堂に向かいながら、レンはなんとなく考える。


答えは出なかった。


朝から、引っかかりが二つになった。

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