ロンリーの戦場
待ち合わせは大学近くの喫茶店だった。
「いつものでいいですか」ソラが聞いてきた。
「うん、適当に座って待とうか」
大輔はすぐに来た。
イッポのような個人AIの気配がない。
興味が出てきた。
「来てくれてありがとう」と大輔が言った。
「いえ」向かいに座った。
ソラが注文したであろうコーヒーが届いた。
「大輔くんはAI使わないんですか」
しばらく間があった。
「必要な時は使うよ」
とても穏やかにそう言った。
「せっかくなので、交互にひとつずつ質問しませんか」と僕は言った。
「君も僕も言いたくないことは言わないと」何か注文したみたいだ。
「言いたくないのと言えないのは違いますけど」
「わかった、それでいいよ」
大輔が注文した飲み物が届いた。いやに早いし赤い。
「それは何ですか?」
「トマトジュースだよ」
「じゃあ、次は僕の番だね」
余計な質問をしてしまった。
「感情スキャンの実験、どれほど使えるものかな」
「どのあたりが気になりますか」
「感情をデータにできる。それがどのくらい精度が出るのか、実用に耐えるのかを知りたい」
「研究の内容は僕じゃなくて白瀬先輩に聞いた方がいいと思いますよ」
「君に聞きたいんです。被験者として」
スキャンされている感覚は確かにある、と僕は言った。
どう数値になっているかどうかはわからないけど、見られている感じはすると。
ミドリ先輩の顔が数値を見て曇ることがある。
それを「使える」と言えるのかどうかはわからないと。
「なるほど」と大輔が言った。
「ERAに参加しているんですか」
「いや、参加はしていない。あれは前時代を知っている人たちだからね」
「どうして実験に参加したんだい」
「なんとなく、ですね。ミドリ先輩に頼まれて、断る理由もなかったので」
「それだけかい。ミドリさんのためじゃなく?」
「そうです」
大輔が時計を見ながら少し黙った。
「感情スキャンのデータ、ERAに関係ありますか」
大輔の表情が変わらなかった。
「今のところはないと思うな。ただ、どんな実験であろうと価値があれば変わるよ」と大輔が言った。
「レンくんはさ、君の好みを理解してくれる人がそばにいたら嬉しいだろう」
「まぁ、そうでしょうね」
「感情スキャンのデータとAIでの分析、君を思い通りに動かすのは簡単かもしれない」
「そうですね」と僕は言った。
「でも、欲しい人がいるとは思えません」
「それは君が決めることじゃないよ」
以前、大輔くんが言ったことを思い出した。
「誰が得するのかって言う話ですか」
トマトジュースを飲み干した大輔が口を開いた。
「感情スキャンが普及したら、世の中はどうなると思う」
僕は少し考えた。
「怖いと思う人と、便利だと思う人に分かれると思います」
「レンくんはどっちだろう」
「それ、二問目じゃないですか」
「そうだね、厳しいね」と大輔が笑った。初めて笑った。
「ERA関係があるんですか」
大輔が少し下を向いた。
「僕はないよ、父親が幹部だ」
少し間があった。
公開情報では確認できなかったのに、あっさり出てきた。
「他にエネルギーを向けてほしいとは思うんだけどね」と大輔が続けた。
「諦められないみたいだ」
何も言えなかった。
言えないのと言わないのは違う、と大輔は言っていた。
これは言えない方だと思った。
大輔がまた時計を見た。
「ずいぶん長く話したみたいだ、そろそろ行くよ」
「わかりました」
「また話そう」
「実験のことは先輩に」
「あぁ、そうするよ」
——
帰り道、ソラが言った。
「レンさん」
「うん」
「大輔さん、時計を気にしていましたね」
「2回見てたね」
「5回です」
「何だろうね」
0.三秒。
「ミドリさんに会いに行きましょう」
「なんで」
ソラは答えなかった。




