吉田と吉田
帰り道、ずっと気になっていたことがあった。
東堂先輩の台詞だ。
ミドリ先輩の早足でもない。
「白瀬くんが実験に熱心なのもその辺りが理由では」
その辺り、というのが何を指しているのか、部屋を出てからずっと引っかかっていた。
「ソラ」
「はい」
「東堂先輩が言ってたこと、わかる?」
「どの部分ですか」
「ミドリ先輩が実験に熱心な理由、その辺りがどうとか」
「本当のところは本人に聞くしかありません」
「まぁそうなんだけど」
「レンさんはどう思っていますか」
「うーん」
「私が答えるとそれを正解にしてしまうかもしれません」
「AIにしか本音を話せないから、感情スキャンで選別したいのかな」
「そうかもしれません」
しばらく歩いた。
「質問を投げかけスキャン情報を積み重ねることで、AIへの依存度や思考パターンなどを推察できます」
「それがわかったらどうなの」
「好きなように思考誘導できるようになりますね」
「そんなことしたいと思わないよ」
ソラが少し光った。
「レンさんのその感覚は大切にしてください」
それ以上は聞かなかった。
——
考えていたところに、見慣れない送信者からメッセージが来た。
「吉田大輔です。少し時間をもらえますか」
ソラが静かに光った。
「大輔さんからメッセージが来ました」
「そっか」
「候補の日時をいくつか提案されました」
「いつがいいかな」
「レンさんの希望はありますか」
「早い方がいいな」
「明日の九時ではどうでしょうか、よければ確定の連絡します」
「うん、お願い」
「気になるのは、定期的にレンさんの動向を確認しているようです。学内のオープンログの範囲ですが」
「それ、普通はしないよね」
「そうですね」
僕はメッセージを見た。日時以外の用件が書いていない。
「ソラ、ロンリーのこと、何か知ってる?」
「調べました」
0.三秒。
「吉田祐輔という人物がERAの幹部にいます」
「吉田 祐輔」
「はい」
「大輔と祐輔」
「読み方まで似ていますね」
「親子とか、親戚とか血縁関係がある可能性があります」
「公開情報の範囲では確認できません。ただ」
ソラが止まった。
「名前の類似と、大輔さんがERAの集会に参加していたこと。そのことは事実として覚えておいた方が良いでしょう」
ERAの集会を思い出した。
集団の端に立っていた大輔。
ソラが「ロンリーさん」と呼んでしまった失態。
「その実験、誰が得してるんだろうね」という一言。
あの一言はなんだったんだろう。
「明日か」
「ミドリさんに話しますか」
「なんで、話さないよ」
「はい」




