生成されるハジメの日々
「朝から鏡の前でトッポに三回聞いたんだよ。俺ってかっこいいと思う?って」
「なんて言ってきたの」
「思いますって即答。で、どう見せたいですかって。」
「それで」
「女子受けするように頼んだよ」
「ふーん、女子じゃないからわからないや」
ハジメが少し考えた。一秒も経たないうちに表情が戻った。
「まぁ、レンはそれでいいよ」
食堂の机を半分占領する勢いで身を乗り出してくるハジメを、僕はお茶を飲みながら見ていた。
「なあレン、瑞稀さんにまた会わせてほしい」
「もう知り合いでしょ」
「まだちょっとハードルが高いんだ。こないだは緊張して『チャオ……』しか言えなかった」
「印象はいいんじゃない」
「そう思うか」
ハジメがスマートフォンを取り出した。
「トッポ、瑞稀さんに話しかけるとしたらどのタイミングがいい」
「あいさつが最適でしょう、不自然ではありません。朝か夕方が狙い目だと思われます」
「じゃあ朝かな」
「はい、わかっていただけて嬉しいです」
「何を話せばいい」ハジメの目が光ったように見えた。
「瑞稀さんが理解できる話題から入るのが効果的です。レンさんやミドリさんを経由する方法もあります」
「それだ」
ハジメがスマートフォンをポケットに戻した。
三秒だった。
ソラが腕のスマートウォッチから薄く光った。
「桐嶋さんはトッポを大切にされていますね」
「そうだよ。いつも最適なアドバイスをくれる」
ソラが止まった。0.一秒。
「どうしたの?」と僕は聞いた。
ソラは答えなかった。
「ミドリ先輩に繋いでもらえばいい」と僕は言った。
「先輩のほうが仲いいんだから」
「お前が頼んでくれよ。俺が行ったら警戒される」
「なんで僕なら警戒されないと思ってるの」
ハジメが「だってお前、気にいられてるじゃん」と笑った。
「そんな訳ないでしょ、笑顔見たことないよ」
「ふーん、そんなことより頼むぜ!」
なぜかそれで話が終わった。
気にいられてる、という言葉が一拍だけ頭の中を漂って、消えた。
結局、その日の昼過ぎにミドリ先輩を捕まえて一言伝えたら、
「……ええ、わかりました」とだけ返ってきた。
夕方、廊下で瑞稀さんとすれ違ったとき、声をかけられた。
「また話したいって、ハジメくんが」と瑞稀さん。
「嫌なら断ってくれてもいいんですよ」
「瑞稀はハジメくんどう思いましたか?」
小声だったけど聞こえた。瑞稀さんのAIかな。
「おもしろいし、良い人だとは思うかな」
「どうでも良い人ですか」
「スイ、そんなこと言っちゃダメだよ」
ツボにハマったみたいだ。声を出して笑ってる。
「何かあれば言ってください、できるだけのことはしますので」
それだけ言ってその場を立ち去った。
なんか、引っかかった。うまく言えないけど。




