あの時は折れてしまいそうな心を懸命に護るだけで必死でしたが……今はとても幸せです!
ある朝、目を覚ましたら、枕もとに婚約者である彼ロロンが立っていた。
「やあ。起きたようだね。おはよう」
彼は柔らかな声でそんな風に言ってくる。
けれども優しさは感じられない。
声から伝わってくるのは彼の中に確かに存在する冷たさだけ。
「え、ロロン? ……おはよう。でもどうしてここに? 珍しいじゃない」
「伝えなくちゃならないことがあって」
「伝え? そ、そう。でも、また急ね。一体何があったの?」
すると彼は一瞬間を空けて。
「君との婚約なんだけど、破棄とすることになったんだ」
そんな風に告げてきた。
「え……」
驚きが大きくて硬直してしまっていると。
「急に伝えることになってごめん。でも、僕のことは心配しないで。僕は運命の人に出会えたんだ。だから僕は大丈夫だよ」
い、いや、そうじゃない……。
「だからさよなら」
言って、彼は雲のような柔らかさで笑う。
「君も幸せになってね」
こうして私たちの関係は終わりを迎えてしまったのだった。
まさかこんなことになるなんて……、と、何度も思った。
その日はずっと憂鬱だった。
すぐに切り替えて未来を見据えるのは簡単なことではなくて。
折れてしまいそうな心を懸命に護るだけで必死。
それ以上のこと、たとえば未来のこととか、そういったことを考えられる状態ではなかった。
◆
あれから数日、ロロンの死という驚きの情報が耳に飛び込んできた。
運命の人、そう呼んでいた女性に、どうやら彼は騙されていたようで。それによって彼は死へと至ることとなってしまったようだ。というのも、女性は彼の名を使って莫大な借金を作っていたのだ。彼はいつの間にか莫大な借金を背負わされていて、しかもその事実を知らなかったために借りたものを返す気のない人というような認識を持たれることとなってしまったらしく。結果、彼は拘束され、内臓を抜き取られてしまったそうである。
まさかそんな結末が待っているなんて……。
ただ、ロロンがどうなろうとも、今は私には何の関係もないことだ。
ちなみに彼を騙していた女性もその数日後に亡くなったらしい。
山道で足を滑らせてしまい転落してしまったそうで。
落ちた勢いで意識を失い、そのまま、二度と帰ってくることのない人となってしまったそうである。
◆
「ん……もう、起きてたの?」
「うす!」
あれから数年。
もう過去に縛られて生きてはいない。
私はあの後良き人と巡り会い結婚した。
「朝から元気ね」
「うっす!」
彼は少々個性的な人だ。
でも悪い人ではない。
常に前向きな力強さを持った人物だ。
「今日も起きてくれて嬉しいっす!」
「おおげさね」
「いやいや! 新しい一日が始まることって奇跡っす! 人間は意外と脆いっすから、日々生きていることに感謝っすよ!」
「まぁ……そうね、それもそうだわ。その通りだと思うわ」
彼といるとどんな状況であっても前向きでいられる。
それは不思議なところだ。
でもきっとそれこそが彼の才能であり彼に宿る偉大なる力なのだろう。
「感謝しながら、美味しいもの食べるっす!」
「作ってくるわよ」
「いやいや! 今日は自分が作るっす! まったり待っててほしいっす!」
「いいの?」
「もちろんっすよ!」
「じゃあ、お願いするわね」
「よっし!!」
「いつも本当にありがとう」
「照れるっす……けど、めっちゃくっちゃ嬉しいっす!」
彼とならきっと幸せになれる――婚約することになった時そう思った。
あの時感じたものは間違いではなかった。
彼となら幸せになれる。
彼となら温かな道を歩んでゆける。
良い道を選ぶことができて良かったな、と、強く思うことは今もある。
だからこそ護りたい。
この幸福な日常を。
どんな敵からも幸せを護って。
真っ直ぐな強い心で歩んでゆきたい。
◆終わり◆




