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もう何も要らないの。この世界の美しさに包まれる、それだけで人は生きてゆけるから。
裏切り者の婚約者から婚約破棄を告げられた。
私は彼を愛していたのに。
彼は私を愛さなかった。
そういうことならはじめから愛しているかのようなことを言ったりしないでほしかった。普通に、愛していない、と言ってくれれば良かったのだ。そうすれば同じ心でいるなんて信じはしなかった。そんな勘違いは発生しなかった。
……でも、もういいの。
裏切り者の彼はこの世を去ったから。
彼はもうこの世界にはいない。
そして彼と共に私を傷つけたあの女も同じ。
人を傷つけた報いは受けてもらった。
だからもうこれ以上過去のことにあれこれ言うことはしない。
柔らかな風が通り過ぎる線。街路樹の花から漂う甘い匂い。走って通り過ぎる子どもたちの無邪気な声の色。見上げた空の水彩画のような淡い空気。
――ああ、今はもう、すべてのものから幸せを感じられる。
傷つけられたり。
傷つけたり。
そんなものはもう要らない。
争いも、悪意も、この世界には必要ないもの。
◆終わり◆




