なぜか眠れない夜、湖の畔で。
それは、なぜか眠れない夜。
じっとしているのも何なので自宅から徒歩数分の辺りに位置している湖の畔へ向かってみたところ――硝子細工のような美しい横顔が視界に入り、一瞬にして心奪われてしまった。
湖の畔に座り込んだ見知らぬ女性の横顔。
僕には何の関係もないものだというのに異様なまでに惹かれてしまう。
「あ、あの!」
思わず声をかけてしまって後悔したけれど。
「……何でしょう?」
女性はこちらを向いてくれた。
そしてまた魅了される。
宇宙の輝きをすべて寄せ集めたような瞳をしていた。
「あ、えと……す、すみませんっ、急に……」
その瞳からは透明な雫がこぼれていたようだった。
「泣いて……いらっしゃった、の、ですか?」
「……そう、ですね」
「何かあられたのですか!?」
彼女は少し間を空けて。
「婚約破棄、されました」
そっと答えた。
「え……そんなに美しいのに!?」
思わず大きな声を出してしまう。
ふっと柔らかく笑みをこぼされた。失礼なことを言ってしまったかと内心かなり焦っていた、それだけに、怒っていない様子を見せてもらえて安心することができた。その小さな笑みはきっと気遣いだったのだろう。
「すみません調子に乗ったことを言ってしまいましたー……」
「面白い方ですね」
「えっ、あ、や、ぇ、っと……ごめんなさいぃぃぃぃぃぃ!!」
「落ち着いてください」
「……う、うう……すみません」
――そう、すべてはここから始まった。
僕と彼女の物語。
その幕開けは唐突に。
◆終わり◆




