その婚約破棄、実は嬉しいのですが……それを悟られないよう、今は気をつけています。~ハッピーエンドへ駆け抜ける~
「なァ、リリア、ちょっといいかァ?」
「何でしょうか」
私の婚約者である彼ダーヴィヴィドゥルは個性ある話し方をする人物だ。
だがそれだけならいい。
ちょっと珍しい喋り方をするなんてことで嫌いにはならない。
けれど彼はそれだけではない。
ことあるごとに絡んでくるし、その絡み方が鬱陶しいし、ということで――彼のことは正直あまり好きではない。
「アンタとの婚約だけどさァ、破棄することにしたァ」
「破棄、ですか?」
「ああそうだァ、そういうことォ、婚約破棄するって言ってるゥ」
胸の奥で何かが湧き上がってくる。
(こ、こ……婚約、破棄……キタアアアァァァァァァァァ! キタキタキタよこれキタキタキタアアアァァァァァァァ! よっしゃァァァァァァァァ! 婚約破棄やァァァァァ! わっしょいわっしょいわっしょいわしょしょいんぐ、わっしょォォォォォォォイ!! ついにこの時が来た!? 現実? これって現実なの? 夢じゃないよね!? 夢じゃ……ない、よね!? うわあああぁぁぁぁぁ嬉しいなこれはさすがにかなり……う、う、うれ、うれ、う、う、う……嬉しすぎる、キタァァァァァァァァァァァァァ!!)
それは喜びの色。
しかもかなり強くて大きなもの。
……だがそれを顔に出してはならない。
ここで本心を露出させてしまってはすべてが台無しだ。
婚約破棄されて喜んでいる、なんて思われたら、また次の嫌がらせをされるかもしれない。そういう新しいややこしさに巻き込まれることだけは避けたい。なのでここでは残念に思っているふりをしておこうと思う。彼のような厄介な人に本心を悟らせはしない。
「そうですか……分かりました、では、そういうことで」
「受け入れるんだなァ?」
「ダーヴィヴィドゥルさんがそう決められたのであれば、私はそれに従います」
「おっし!! じゃ、そういうことでェ! バイバァイ! バイバイバァインバァイバァインバァバァバァバァバァバァイバァイ!」
こうして私はダーヴィヴィドゥルから解放された。
……その数日後、彼は亡くなった。
◆
ダーヴィヴィドゥルとの婚約が破棄になった日から数週間が経った頃、昔近所に住んでいてよく遊んでいた異性の幼馴染みローロと再会した。
それは奇跡の再会で。
そこから私の人生はまた新たな段階へと進み始める。
思わぬ形で始まったローロとの関係だったけれど、それは意外にもスムーズに進展していって――気づけば私たちは婚約するに至っていた。
「結婚式、ドキドキするね……」
「ええ」
「リリアは冷静だね、強くて凄いよ」
「……いいえ、緊張はしているわ」
「本当に?」
「もちろんよ」
「そうは見えないけどなぁ」
「ま、ある意味そうかもね。緊張しているように見えないように気をつけているから。私はどんな時もなるべく冷静な人間でありたいの」
今日は結婚式。
間もなく私たちは皆の前で同じ未来を誓う。
「リリアは強いなぁ」
「そうでもないのよ」
「本当?」
「ええ。……むしろローロの方が強いんじゃない? だって、今も、こうやって話しかけてくれているし。リラックスさせてくれているじゃない」
「そんなつもりはなかったよ」
「じゃ、自然としてくれているのね」
「褒めてくれてありがとう。嬉しいよ。リリアの言葉には大きな力があるね、凄く励まされるよ」
――ここからまた新しい日々が始まってゆく。
◆終わり◆




