それは、クリスマスの夜を迎える直前の出来事でした。
クリスマスの夜を迎える直前、そろそろ陽が落ちるかなといったような時間帯、彼は私の前へ現れた。
「大事なことを伝えに来た」
婚約者である彼ラウーゼンは何やら真剣そうな面持ちでそんなことを言ってきて。
「お前との婚約、本日をもって破棄とする」
数秒の沈黙の後、はっきりと宣言してきた。
ラウーゼンの声の調子は淡々としている。声の調子といい、表情といい、ふざけているというわけではなさそうだ。突然婚約破棄を告げてくるというのはふざけているとしか思えないけれど。ただ、彼の様子を見るに、ふざけるつもりは一切なさそうである。ということは恐らくラウーゼンは本気なのだろう。本気で決めて、本気で告げてきて、ということなのだろうと思われる。
「いきなりですね」
「何だっていいだろう」
「……何かあったのですか?」
「いやべつに」
「本当ですか?」
「もちろん」
「ええっ……そうは思えません」
「だとしてもそうだ。何かがあったわけではない。お前とはもう終わりにしようと思っただけだ」
こうして私たちの婚約は彼によって一方的に破棄されてしまったのだった。
◆
あの後少ししてラウーゼンは別の女性と結婚した。
何でも彼女の腹の中に子が宿っていたらしい。
つまり彼は私という婚約者がいる身で他の女性にも手を出していたということのようである。
いやいや、もう、いろんな意味で酷すぎる……。
ただ、私を裏切っていた彼とその相手女性は、後に痛い目に遭ったようである。
二人が結婚した日、彼女の両親が事故で亡くなってしまった。
それによって女性の姉が正気を失って。
一人では暮らせない状態となってしまったためにラウーゼンらは急遽同居しなくてはならないこととなってしまったようだ。
しかしその介護はかなり手間のかかるもので。
ラウーゼンも、女性も、すぐに暴れる女性の姉からの暴力にたびたび見舞われていたそうだ。
……で、ある晩二人は女性の姉を殺めた。
それによって逮捕されたラウーゼンと女性、二人は別々の地域にある牢に入れられた。そして、二度と会うことはできなかった。夫婦でありながら二人は共には生きられなかった。また、女性の腹に宿っていた子がどうなったのかは、誰も知らない。
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あの後少しして私はとても優しい男性と結婚した。
おかげで今は幸せに暮らすことができている。
なんてことのない日常こそが何よりも尊い運命からの最高の贈り物であると強く感じる日々だ。
◆終わり◆




