魔女が何者だったのかは今も分からないままですが……あの後幸せになれたので彼女には感謝しています!
「お前との婚約は本日をもって破棄とする!!」
とある晩餐会にて婚約者である彼モードリッツがそんな風に宣言してきた。
勢いよく言いきった彼は勝ち誇ったような顔をしている。
まるでライバルを叩きのめしたかのよう。
長年倒したくて倒せなかった相手をついに倒した瞬間のような達成感に満ちた面持ち。
「前から思ってたけどな、お前、ダサいんだよ。華がない、ってか。パッとしないんだよな~。魅力が足りない、っていうかさ」
彼が半笑いでそんなことを言った瞬間、突如私たちの間に見知らぬ魔女が出現して。
「お主、あまりにも無礼であるぞ」
「は、はあ? 何だよババア! 邪魔すんな!」
「ほう。そのようなことを言うか。やはり無礼者の極みであるな」
「その喋り方! キモいんだよ!」
魔女は「愚か者め……覚悟せよ」と呟くように発し、手にしていた杖の先をモードリッツの方へと向ける。
「ヨエキハノモイレブ!!」
彼女がそう唱えると、黒ずんだ光の球がモードリッツに向かって飛んでゆき、彼の身体を消滅させた。
「お嬢さん、あやつは消えた」
「あ……」
「あのような無礼者は生きているべきではない」
「そ、そう……ですか」
「思わぬか?」
「い、いえ、でも……その、ちょっと……まだ頭が追いつけていないといいますか……」
モードリッツに何が起きた? 消えたのか、死んだのか、それともまた少し違う状態なのか。まだ理解しきれていない。まさかの展開についていけない。これは何をどう理解すれば良いのだろう? 今のこの状況というのはどういった形で理解することが理想的なのだろう?
「あやつはこの先永遠に地獄の炎に焼かれる」
「えっ」
「それが事実だ。ではこれにて、失礼する。お嬢さん、元気でな」
最後まで言いきると魔女は消えた。
その後どうなったかといえば。
モードリッツの死によって二人の婚約はほぼ自動的に破棄となったのだった。
◆
あれから数年、私は、薬草学を研究している男性と結婚した。
彼は常に涼しい顔をしている人だ。だが、失礼な言葉を発してくることはないし、何ならふとした瞬間に優しさをくれる。だから彼と過ごす時間は幸せだ。彼と過ごす日々から滲み出てくる幸せというのは、決して派手なものではないけれど、どんな時でもそっと寄り添っていてくれるような尊いものだ。
私は幸せになれた。
なのであの時の魔女には深く感謝している。
彼女のおかげで今の私がある。
あの魔女に会うことはきっともう二度とないだろう。
でも、それでも、感謝の心だけは忘れたくない。
きっと直接は言えないままだろうけれど、もし奇跡が起こるのならば「味方してくれてありがとうございました」と伝えたい気持ちでいる――そこだけはいつまでも変わらない。
◆終わり◆




