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愛しいもののために頑張っていたのに……それを台無しにするなんてあり得ません。
今私は買い出しのため出掛けている。
婚約者である彼が待つ家を出て。
買い物を終えて帰宅したらすぐに昨夜作っておいたケーキを食べる予定だ。
甘いケーキは私の好物。あれほど愛おしいものはこの世には他にない。あれがあるなら、あれが待っていてくれるなら、私は頑張れるしどんなことだってできる。面倒臭いこと、難しいこと、辛いことだって、甘いものが待っていてくれるなら気合いで終わらせてしまえる。
人というのは、やる気を生み出してくれるものさえあればなんだかんだでかなり頑張れるものだ。
ああ、今はただ、ケーキに会いたい……。
姿を思い返してみるだけでもうっとり。
柔らかな心地よさが胸の内に湧いてくる。
今はただひたすらに。
早くケーキに会いたい。
――そう思っていた、のに。
「あれ? ねえ、ここに置いてたケーキ知らない?」
「あああれか。食べたぜ。美味しかった」
帰宅した時には愛しいものの姿は消えていて。
しかも婚約者の胃の中に……。
「ごめん、婚約破棄する」
彼はいきなりのことに「えっ」とこぼすがそんなことはどうでもいい。
「人のもの勝手に食べる人と結婚は無理」
こうして私たちの婚約時代は終わった。
◆終わり◆




