それは、外を歩くだけでも汗が出てくるような季節に起こったことでした。
夏がやって来た。
外を歩くだけでも汗が出てくるようなそんな季節。
「わりぃけどさ、あんたとの婚約は破棄ってことにするわ」
婚約者である彼ガーウィンは私の家を訪問しそんなことを言ってきた。
「俺、もっといいやつと結婚したくなったんだわ。あんたのことも大嫌いってわけじゃねえけど、でも、あんたってそんなにいい女じゃねぇだろ? 結婚相手決めんのに妥協は良くねえなって思って。だからあんたとはここで縁切るわ。じゃあな、永遠にさよなら。二度と俺の前に現れるなよ」
さらにそんなことまで言われて。
そのまま私は彼と別れることとなった。
どうしてこんなことになってしまったのだろう、そう思う瞬間はあった。
胸の奥には常に重苦しいものがあって。
別のことをしていても、時折ふとそのことを思い出してしまって、そのたびに何とも言えない気分になる。
そんな日々が続いていたのだけれど――ある時、父親の事業が大成功したことで、私の人生は大きく変わった。
長年取り組んできた研究の成果によって父親は完全なる成功者に。
そしてその家族である私の生活環境も一変。
過去の残念な出来事や抱えていた重苦しい気持ちなんてどうでもいい、と迷わず言えるくらい、まったくもって別の人生が待っていた。
ちなみにガーウィンはというと、私との婚約を破棄してから一ヶ月も経たないうちに路上で不審者に襲われ命を落としたのだった。
結婚相手を決めるにあたって妥協するのは良くない、なんて言っていた彼だけれど、彼には誰かと結ばれる未来はなかったし穏やかに幸せに暮らせる未来すらもなかった。
◆終わり◆




