貴女にはただ生きていてほしかった。姉として今でもそう思っています。
「また花を見つめてるの?」
「あ、お姉さま。ええ、そうなんです。このお花、とても綺麗ですよね」
私には可愛い妹がいた。
彼女はどんな時も姉である私を慕ってくれていた。
「お姉さまに差し上げます」
「え……い、いいわよ、そんなの。好きなんでしょ? だったらあなたが持っていて」
「いえ、いいんです。お姉さまのことはとても好きですから。好きなものはお姉さまに差し上げたいんです」
澄んだ瞳をした彼女はどんな時も優しかった。
本当に自慢の妹で。
宝物のような存在だった。
――でも彼女は。
「貴様のようなダサい女に興味はない! よって、婚約は破棄とする!」
婚約者に突然切り捨てられて。
「俺に相応しいのはもっと華やかな女だ。貴様じゃない。だからここでおしまいだ。ここまで面倒をみてやったんだ、感謝しろ」
悲しみに溺れ。
「待って! どうして!? 飛び下りるなんてやめて!」
「……もういいんです」
「駄目よ! 死のうだなんて! それだけは絶対駄目!」
「お姉さま、今までありがとうございました」
家の近くの崖から身を投げた。
彼女は自ら命を捨てた。
捨てる必要なんてなかったはずなのに。
あんなに優しくて、あんなに善良で――そんな女性は滅多にいない。
だからこそ生きていてほしかった。
心ない言葉をかけてくる人なんて無視して。
彼女は彼女のまま、彼女らしく生きていてほしかった。
彼女を否定したのは婚約者だけ。一人だけ。それ以外の人は皆彼女を愛していた。姉である私はもちろん、両親も、友人も。彼女の良いところを知っていたし彼女を愛していたのに。生きていてほしいと願っていたのに。
それなのに、彼女は逝ってしまった……。
私は姉として彼女の一番近くにいた。
けれども彼女の死を止められなかった。
あまりにも悲しい――そんな最期だった。
◆終わり◆




