関係の終わりというのはいつも突然やって来る……ものですね。~それでも私は幸せになるのです~
関係の終わりというのはいつも突然やって来る。
「君との婚約は破棄とすることにした」
婚約者ガインズからそう宣言されたのは、ある平凡な夏の日で。
「俺は君より魅力的な女性に出会ってしまった。そして真実の愛を知ってしまったんだ。もう彼女しか見えない、だから、もう君は要らないんだ。君など所詮形だけの婚約者だったのだ、と、今は完全に理解した」
恐らく言っているその女性に惚れたのだろう。彼はそんな極めて自己中心的なことを理由として私を切り捨てようとしている。それは非常に愚かなことだ。自分のことしか考えず、自分のためだけに道を選ぶ。彼の生き方は周囲に迷惑をかけるばかりのもの。
「真実の愛に出会ってしまったら……もう仕方ないんだ。これまでの関係なんてどうでもいいし、そんなものは叩き壊してやる。それだけの覚悟が俺にはある。だから……君とはここでお別れする」
ガインズは信じられないくらい冷たい目をしていた。
「伝えたからな。では、さらばだ」
そう言って彼は去っていったのだけれど――その帰り道、彼は野犬の群れに襲われて酷い傷を負い、やがて帰らぬ人となった。
愛しい人と結ばれようとして。
近しい人を傷つけて。
好きなことを好きなように、自分勝手に生きていた彼の最期は呆気ないものだった。
だがこちらからすれば「ふーん」としか思わない。
ガインズは私を傷つけた。だから、その人に何があったとしても、それはどうでもいいことだ。彼がどうなったとしても、可哀想だとは思わないし、思いたくもない。ガインズに向ける優しさは私の中にはもう欠片ほども残っていないのだ。私たちの関係はもう変わった。今はもう、婚約者同士だった頃の二人ではない。
◆
あれから何年が経っただろうか。
確かなことは思い出せない。
ただ一年や二年といった経過ではない、もっと長い時が流れ過ぎていった。
私は今、資産家の男性の妻となっている。
「これをどうぞ」
「え!? ……これ、君が淹れてくれたのかい?」
「ええ、淹れてみたの」
「嬉しいよ! ありがとう! 君が淹れてくれる紅茶はいつもとっても美味しいから好きなんだ」
夫となった彼は私に対して何も求めない。あれをしろ、これをしろ、なんて、絶対に言わない。それに、どんな私であっても受け入れてくれる。
でも、だからこそ、私は常に彼のためにできることを探している。
求められなければ何かしたくなるのだから、人の心とは不思議なものだ。
「砂糖は入れておいたから」
「ありがとう!」
これからも彼と生きていきたい。
この幸せを護りながら歩みたい。
だから、そのためにできることがあるなら、何だってやっていくつもり。
「入れない方が良かったら言ってちょうだいね、次からそうするから」
「いやいや、いいんだ、砂糖は好きだし」
「なら良かったわ」
「もう本当に感謝しかないよ」
「いいえ。感謝すべきは私の方よ。私がこうやって穏やかに暮らせているのは貴方がいてくれるからこそだもの、感謝しなくちゃならないのは私」
彼と出会えて幸せになれた。
だから彼にお返ししたい。
けれども私には彼へ返せるものがまだそんなにない。
それゆえ悩むこともあるけれど。
一つ一つ考えて行動していけば何か少しは返せるかもしれない。
「その言葉、そのまま返すよ」
「ええー……」
「事実だから仕方ないね」
「お互い様って感じ?」
「そうだね」
「じゃあお互いにお礼を言うことになる感じね」
「ま、厳密にはこっちの方がお世話になってしまってるけどね」
ありがとう、その気持ちを忘れずに生きてゆけるなら、きっと大丈夫。
幸せな日々は長く続くだろう。
◆終わり◆




