決意の私
水曜日の午後。
いつものように鞄を抱えて、部室の前まで来た。――けれど、ドアに手をかける寸前、指が止まった。
顔を合わせるのが怖い。晴人は昨日の言葉を、きっと覚えている。
……無理だ。
私は踵を返し、そのまま校舎を後にした。
なんて最低なんだ。自分で観望会を企画しておいて休むなんて……。後輩にも、申し訳が立たない。
帰宅してからも、自己嫌悪の波は止まらなかった。
スマホが鳴ったのは、夕食前のことだった。
後輩からのメッセージだった。
『椿先輩、体調大丈夫ですか?
観望会の準備は晴人先輩と進めています。開催の目処はつきそうです。
心配しないで身体を休めてくださいね。』
思わず起き上がって、画面を見つめる。
――彼は、私が体調不良で休んだことにしてくれて、しかも観望会の準備までしてくれていた。
胸に手を当てた。
……晴人は、私を守ってくれる。
まるで少女小説のヒロインみたいな気分だった。彼は、ピンチのときに助けに来てくれるナイト様なんだ。
部屋の空気がふわっと明るくなった気がした。なんだか恥ずかしくなって、そばにいた黄色いクマのぬいぐるみまで殴ってしまった。
でも――
その温かさすら、わたしの罪悪感には勝てなかった。
優しい彼と比べて、自分は……なんて酷い人間なんだろう。
謝ることすらできない。会いに行く勇気も出ない。
――彼に会って、いったい何を話せばいいんだろう?
クマのぬいぐるみに聞いても、
「殴ったのにずいぶん虫がいいんだよぉ。」
としか言ってくれない。
その翌日も、さらにその翌日も、私は部室に行けなかった。
土日も、部屋でただ悩み続けた。プレゼントを買いに近所のショッピングモールに行こうと考えたけど、気づけば夕方。また気づけば日曜の夜だった。
悩みに悩んだ末、わたしは布団の中で、吹っ切れるようにこう思った。
――私が好きなんだから、それでいいじゃないか。彼に、ちゃんと謝ろう。
私は、ぐっと拳を握りしめ、そう決意したのだった。