奪われた笑顔
その日から俺は彼女と過ごすことが多くなった。
そうなってから知ったのは出会ったあの時、彼女は父親を病気で亡くしてあまり経っていなかったのだということ。
家族についての話をした時、無理やり笑ったような顔で朱音はそれを話してくれた。
あの時の笑顔を見た時、俺は彼女を放っておく事が出来なくなった。
俺自身の事よりもこの少女の為に何かしてやりたいと思った。
彼女を守りたいと感じた。
――――出来る事なら、ずっと傍に居たいと望んだ。
いつ、俺は自覚したのだろう。
その思いは次第に大きく膨らんでいき、やがて俺は悩まされた。
その思いが「恋」と呼ばれるものへと変わり、俺を苦しめるようになったのはいつからだったのだろう。
表面上は“幼馴染み”として彼女と接してしても、内心はそれ以上の関係を求めていた。
でもこの想いを打ち明ければ、彼女の返事によっては傍に居られなくなるのでは―――……。
だから、苦しくて辛くても俺はこの胸に秘めた想いを伝えようとは思わなかった。
ただ彼女の近くに居て、俺の心を救ってくれたあの笑顔を見続けられるなら――――。
……――――そう思っていたのに。
それはあまりにも突然に奪われてしまった。