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彼女の微笑み
どうやって現世に蘇った彼女に日記帳を渡すか。
しばらく考えた結果――――。
「お前、本当に大丈夫なのかよ?」
俺はなるべく疑わしげに、ベッドにいる朱音にそう訊いた。
「大丈夫だよ」
彼女は微笑む。
時刻は午前十時を過ぎたところ。
朱音がこちらに戻ってきて約六時間が経過している。
今日は日曜日。
俺は彼女の前でのいつもの姿――黒井燈亜として朱音のいる病院に見舞いに来ていた。
「でも、車にはねられたんだろ? なのに無傷って……」
「あはは……でも、しばらくは目を覚まさなかったみたいなんだけどね」
「………事故にあっても、相変わらずその呑気さは無くならねーんだな」
彼女が戻って来る前も思ったが、やはり呆れるしかない。
朱音は苦笑して、俺はそんな彼女の様子に自然と笑む。
「ま、その呑気なところが朱音の良いところでもあるんだけどな」
どんな時でも彼女が笑えば、暗い雰囲気でも周囲はそれにつられたように明るくなる。
何というか………心が温かくなるって感じ?
それは俺が彼女を好きになった理由の一つなんだ。