禁術
「で、俺は見ての通り悪魔だ。名はトリア」
「悪魔……………」
いつも彼女と接している時は人の姿をして別の名を名乗っているので本名を言っても大丈夫だろう。
そう考えて言った後、彼女が何処かショックを受けているようなのに気付いた。
―――朱音のことだ。きっと悪魔が目の前にいるもんだから、自分が地獄行きなのかとでも考えているに違いない。
俺は再び溜息を吐いた。
「朱音。とりあえず考えるのは俺の話が終わってからにしてくれ。後で質問があったら聞いてやるから……」
「あれ? 何で私の名前―――」
「俺が悪魔だからに決まってるだろ」
彼女の問いに、内心ぎくりとするが何とか表情を変えずに俺はごく自然に答えた。
そして、朱音を見下ろし、決意する。
―――これは呪い。俺自身の寿命すら縮める禁術。
右手に出現させたのは一冊の日記帳。
「ほら、これやる」
「わっ…………」
朱音は放り投げたそれをしっかりと受け止めると中を開き、首を傾げた。
「何、これ? ノート……?」
「日記帳だ」
不思議そうにしている彼女に、説明する。
「この日記帳はただの日記帳じゃねーぞ? これの表紙に死者が名前を書いて、日記を記すと、死者が現世に蘇られるっていう代物だ」
ペンを手渡すと、彼女は困ったように俺を見た。
「どうして……私に?」
―――そりゃ普通は疑問に思うよな。
俺は苦笑し、これだけは嘘を吐かずに喋る。
「お前が死んじまうと俺が困るんだよ。悪魔には悪魔の都合があんの。で、どーすんだ? 生き返るか、このまま死ぬか……………」
二つに一つの選択を迫る。そして……。
「…………りたい。……生き返りたいに決まってるじゃない!!」
少し間を置いてからの答えに、俺は安心した。