全く……
「おい、泣いてんじゃねーよ。顔あげろ」
俺は不思議な景色の中、一人でうずくまっている少女を見下ろし、声をかける。
彼女は一瞬肩を震わせると、ぎこちない動きで顔を上げた。
急がなければ彼女の魂は黄泉へと下ってしまう――――。
俺は一方的に話し掛ける。
「どうしてお前がここにいるのか分かっているのか? お前は信号無視で突っ込んできた車にはねられたんだ」
「はね……られた?」
うわごとのように繰り返す彼女に、俺は頷く。
「そうだ。ここは現世と黄泉の狭間にある世界。―――簡単に言うと、死者の国の入り口前。……つまり、お前は死んだってこと」
とりあえず、何も分かっていなさそうな様子の朱音に状況説明をしてやると、彼女は顔色を蒼白に変えた。
「死んだ? 死んだって…私、死んじゃったの!?」
ようやく自分の置かれた立場を理解したらしく、彼女はパニックを起こしていた。
「どっ…どどどっ、どうしようっ!? 私、お母さんを残したままで死ねないよっ!!」
その言葉で、そういえば彼女が母子家庭なのを思い出す。
そして、俺はこのままでは話を続けられないので、仕方なく怒鳴ることにした。
「うるさいっ! とりあえず人の話を聞け! 騒ぐな、黙ってろ!」
朱音はぴたりと口をつぐみ、俺は全く……と、溜め息をこぼした。