狂わせた歯車の再生
再び現世から姿を消した少女の魂は黄泉へと下っていった。
それを確かめた後、俺はこの街で一番高いビルの屋上にいる。
そして、もう一度彼女の日記を読んだ後、俺は力任せにページを破った。
俺はあの後、決意していた。
――――俺が狂わせた運命を元に戻そう、と。
まとめて破った日記帳のページを、ビルの上から地上へ向かって蒔く。
ひらひらと風に乗り、揺れながら日記の切れ端は舞い落ちる。
その中で紙片は淡い光へと変わり、あちらこちらに散らばっていった。
――――しばらくすれば、全ては元通りになる。
光が四方八方に散っていくのを見ながら、俺は呟いた。
「………ずっと、好きだったんだよ」
この言葉を聞かせたい相手はもう、この世にいない。
だけど、俺は言わずにはいられなかった。
俺は仮の姿である黒井燈亜へと変わるとその屋上を後にし、ある場所に向かった。
俺が向かったのは――公園。
俺と朱音が最初に出会ったあの場所。
公園内には、もう日が暮れようとしているからなのか遊んでいる子供達の姿はなく、憩う人達も居ない。
この場所で俺の全ては始まったような気がする――――。
俺は苦笑して、自分の手のひらを見た。
少しずつ、少しずつ、その手のひらは色を無くしていく。
手だけじゃない。俺の身体から色が徐々に消えていった。
――――サクリファイスダイアリーの代償。
表紙に記された名の死者を日記を綴る事で蘇らせる代わりに一ページごとに生者を一人殺す。
そしてもう一つ。もし、日記の生け贄となった人々をこの世に取り戻すのならば蘇らせた死者は再び命を失い、サクリファイスダイアリーを生み出した者は肉体を無くし存在を消される。
これがこの禁術の代償。
朱音を取り戻す為なら他者の命なんて……と思うようにしてきたけど、俺には無理だった。
だから、朱音を再び失った今、俺は狂わせた全ての歯車を元に戻そうと決めたんだ。
俺は奪った命をずっと背負っていけるほど、強くはないから――――。
「…………今までありがとう」
最期に俺は感謝を口にした。
今、俺が望むのは俺が運命を狂わせた人達の幸せ。
そして、朱音が生まれ変わってからの幸せ――――。
それは身勝手かもしれないけれど、願わずにはいられなかった。
――――ゆっくりと、瞳を閉じる。
そして俺の身体は完全に色を無くし、意識も溶けるように消えていった――――。
***
生け贄にされた魂は、再び現世に取り戻され、本来消える運命だった命がこの世から消えた。
世界は一人の少女を失い、再び元の歯車が廻る。
ただ一つ。一人の悪魔が存在したという記憶を人々から奪い去って―――――。
Fin
この物語を読んでくださった皆さん。ありがとうございましたm(__)m
これで「Sacrifice Diary〜ただ望むのは〜」は完結です。
この物語は「Sacrifice Diary」の悪魔――トリア視点を書いたものですが…………。
………トリアを書くのが前作の朱音以上に辛かったです。
作者が思っていたより話が重くなってしまったような……。
でも、辿り着いた結末は書き始めた時と変わっていません。
いつでもいいので、よろしければ感想等を頂けると嬉しいです。
読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました!
紫夜河 太桜