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サヨウナラ

「明日、母親の誕生日なんだろう? ………いいのか?」



 ふと俺は思い出し、彼女に訊いた。


 その時にはもう、彼女の表情はしっかりと決意を浮かべていた。



「うん。……プレゼントはもう、買ってあるから―――」




 ――――朱音は強いな。



 俺はそう思って、涙が溢れそうになるのを必死に堪えた。



「……それに、他人の命を犠牲にしてまで生きていたいとは思わない。……そんなので命を得たって、嬉しくも何ともないし、幸せにもなれないと思うから」



 朱音の言葉を聞きながら、俺はずっと唇を噛み締めていた。


 この胸に押し込めた罪悪感、後悔――朱音を蘇らせてから溜めに溜めた感情が流れ出てきてしまいそう。



 ――――でも、まだそれは塞き止めていなければならないんだ。


 俺はかなり無理に笑顔を浮かべた。



「――――やっぱり、朱音ならそう言うと思ったよ」



 朱音の優しさに救われ、朱音の強さに憧れ、朱音の笑顔に惹かれた。




 俺は彼女へと手を伸ばした。




 ――――サヨウナラ。朱音。





 心の中で別れを告げる。


 朱音の姿は空気に溶けるように形をなくしていった。







 ――――そして、彼女は消滅した。






 俺の元に残されたのは日記帳――サクリファイスダイアリーだけ。



 それを開き、彼女の記した日記に目を通した。


 終わりの方にはこの日記についての不安が綴られていたけど、それ以外の部分を読む限り生き返ってからの数日間、彼女が充実していた日々を送っていたことが分かる。


 日記の内容は彼女の母親の誕生日についても多く書かれていて、俺はせめてもう少しの間は彼女の前に現れなければよかったとまた後悔した。




「朱音……」




 俺は彼女の名を呟く。


 その時にはもう、視界が霞んでいて、続けて日記を読むことが出来なかった。






 開いた日記のページに、雫が滲んでいく――――――。









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