分からない
その二日後、退院したらしい朱音が登校してきた。
朱音は教室に入ってくるなり、とある一点を見詰めている。
それは花田の机。
その上には花が飾られた花瓶。
俺は立ち止まったままの朱音に近付く。
「燈亜、……これ、どうしたの?」
不安でいっぱいとばかりの朱音の顔。俺はちゃんと言わなければならないと静かに言葉を紡いだ。
一昨日、そいつ。……階段から落ちて――――打ち所が悪くて、死んだんだ。
俺ははっきりと言った。
花田は死んだ。
搬送された病院で、彼女は息を引き取った。
彼女を失って嘆き悲しむ人達の声は離れている俺に届き、俺は瞳から溢れる涙が止められなかった。
――――酷い罪悪感。
おまけに、身近にいる人間が死んだというショックは大きい。
――――これも、あの日記の効果だ。
禁忌を犯して命を蘇らせた代償。
朱音に日記を書かせるのを止めさせない限り、何の罪もない人達の命は奪われていく。
けれど、書くのを止めさせたら、朱音はまた、この世からいなくなる。
俺にとって、朱音を失う方が辛い。
だから俺は罪悪感を殺そうと必死になっていた。
花田について俺が言った後、朱音は愕然とした表情をする。
「嘘………でしょ?」
その言葉を首を振って否定し、俺はうつむきながら言った。
「本当だよ」
朱音は信じたくないとばかりに、それきり口を閉ざした。
俺はそんな朱音を見ながら、「ごめん」と心の中で呟いた。
その言葉は誰に対しての謝罪だったのかは、俺自身にも分からない。