気付かれませんように……
さて、俺はここへ来た目的を果たさなければならない。
「ん?」
俺は少しわざとらしいか? と思いながら首を傾げた。
「朱音、ベッドの下に何かある」
「え?」
朱音は俺の言葉に不思議そうに首を捻る。
「ちょっと待って」
椅子から立ち、床にしゃがんでベッドの下に手を伸ばし入れたところで、俺は朱音に気付かれないように軽くその手を振った。
するとその手には例の日記帳が現れる。
俺はそれを確かめると立ち上がり、朱音に日記帳を手渡した。
「あっ……」
朱音が目を見開く。
「何だこれ? 朱音の名前が書いてあるけど……」
自然に、自然に思えるように注意しながら、俺は朱音に問う。
「落として気付かなかったのか?」
「あ、あははははははは……」
答える言葉が見つからないらしく、朱音は乾いた笑みで応じた。
――――どうやら大丈夫そうだ。
「……ま、朱音らしいけど」
いつもどこか抜けている朱音は、よく俺を呆れさせる。だけど今回は感謝だ。
――――でも、何の疑問も持たずに俺の演技が受けて入られて、やっぱり朱音に対して不安が拭えない。
多分、朱音以外の奴なら俺に不審なところがあるのに気付くのではないだろうか。
そう思うと、今日もいつもと同じように俺は溜め息を吐いた。
さて、俺が今日するべきことは終わった。
「それじゃ、元気そうだし、俺は帰る」
「うん、ありがとう燈亜」
朱音は微笑んで俺に礼を言う。
ズキン、と心が痛むけれど、俺はそれを無視。
俺は手を軽く振りながら、病室を後にした。
「朱音………」
どうか彼女に気付かれませんように…………。
俺はただ、静かに願った。