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転校先は子午線だった  作者: kaithi
7/13

町原(睦月)

「先輩、ちょっといいですか?」

 他の部員達が帰ったあとの教室で、いつもどおり問題集を解いている武蔵先輩に、俺は話しかけた。

武蔵先輩は神崎先輩とバスケ部の部室で待ち合わせをして帰るので、いつも神崎先輩が来るまで問題集や宿題をやって時間を潰していた。たまに芽室先輩も残って宿題をしていたりする。しかし今日は一人だ。

武蔵先輩は部活中でも必要なこと以外はしゃべらないし、基本無表情なので、整っている顔の分、余計に冷たいイメージがあって、部活後の教室で話しかけたことはなかった。しかし、先日の人面そう事件での解毒用のお茶のお礼を言わないといけない。

人面そう事件でのやり取りでいい人なのは分かっていたが、やはりちょっと緊張してしまい、声は上ずってしまった。

武蔵先輩は問題集から目を上げて、最近増えた後輩を見た。

「なんだ?」

 これまた最小限の言葉だが、そこに拒絶感はなかった。表情も柔らかい。

「前、座ってもいいですか?」

「ああ」

 俺は断りをいれてから、武蔵先輩の前の席に座った。武蔵先輩に向かって頭を下げる。

「この間はありがとうございました。お茶は全部飲ませてもらいました。普通に美味しかったです。それと、過去のテスト問題も助かりました」

「テスト問題のお礼なら、神崎に言ってくれ。俺は何もしてないから」

 武蔵先輩の兄のテスト問題のはずだが、どうやら本当に閲覧や持ち出しが自由なようだ。

「神崎先輩にも後でお礼をいいます。それで、何かお礼をしようと思って」

「お礼なんていらないよ」

 思っていた通りの返答が帰ってきた。

「いえ、母に話したら、お礼をするよう言われたんです。食べ物も好き嫌いありますし、ちゃんと聞いてくるようにって」

「そうか…」

 お礼をされること自体に慣れないのか、武蔵先輩は窓の外を見て考えこんだ。

 そこに、あり得ない人物の声が入った。

「ハロウィンが近いしお菓子とかどうっすか?」

 突然、出入り口側から聞こえてきた声に目を向けると、机に隠れるようにしてしゃがみ込んだ永良の姿があった。武蔵先輩にはコートの中以外は1m以内接近禁止なので、そこは守っている。律儀なんだか、痛い目にあった過去でもあるのか。

「お前、何やってんの?!」

 俺は驚いて声を上げたが、よくあることなのか、武蔵先輩は落ち着いた表情で永良を見た。

武蔵先輩とは接触禁止なこともあり、永良はいつも着替えたらすぐに家に帰る。満が言うには下手に残っていると、2年からさっさと帰れと追い払われるらしい。

帰ったふりをしてどこかに隠れていたということか。

「俺かって武蔵先輩と話したいことがあるんやっ」

(それはいつもだろう…)

 そんなだから2年に追い払われるんだと、俺は心の中で思った。

「闘雄さんのテスト問題のおかげで、俺、全部80点以上は取れそうです」

「そうか。良かったな」

 武蔵先輩は感情のこもらない声で言った。

「やから、約束通りハロウィンにお菓子の交換をお願いします!」

なんと、そんな約束をしていたとは。久の家で勉強した時、永良に模擬問題を渡してしまったことを再度後悔した。

「ちゃんと話してた鍋で作りますから」

「いや。それは俺がするから、鍋を貸してくれないか?」

 鍋とは一体何のことだろうか? 俺にはわからない話を前にしていたようだ。中間の結果がわかるのは明日だが、二人は永良の言う5教科80点以上がクリアされたことを前提で話を進めている。とんでもなく高いハードルだと思うのだが、武蔵先輩はそれほど永良を信用していると言うことなのだろうか。それはそれで複雑だ。

「わかりました。明日持ってきます」

 永良は武蔵先輩の了承に意気込んで言った。武蔵先輩は淡々と指示を出す。

「出来ればうちに持って来て欲しいんだ。あと、おばあさんのレシピがあったらそれも見せて欲しい。手間をかけて悪いんだけど、頼めるか?」

「もちろん!」

 意中の人の頼みに、永良は満面の笑みを浮かべた。

 細かい話は分からないが、できればこの場には居合わせたくなかった気分になった。永良が奇行に走らないかドキドキして見ていたが、永良は「また連絡します」とだけ言ってその場を立ち去った。帰るときは近づいてきた時のように、机を盾にするようにしてしゃがんだりせず、立ち上がって素早い動きでドアから姿を消した。

 その姿を唖然として見送っていた俺に、武蔵先輩が声をかけた。

「船上」

「はい」

 顔を向けると、武蔵先輩は真剣な顔をして言った。

「今の話は誰にも言わないでくれ。特に神崎には」

「は…はい」

 有無を言わせぬ空気に、俺はのどを詰まらせながら答えた。

「あと、お礼の件だけど、弟の趣味がお菓子作りだから、無塩バターか生クリームをくれないか?」

 一転、穏やかな表情で武蔵先輩が言った。あまりの落差に一瞬、何の話かと思ってしまった。お礼の話を持ち出したのはこちらである。

「え、そんなものでいいんですか?」

 お礼の希望が食材だったので、思わず聞き返してしまった。

「ああ。マーガリンじゃなくてバターで頼む。無塩のな。結構値が張るんだ。ハロウィンにカボチャの菓子を作る予定だから、余ったらお前にもやるよ」

「そんな、悪いですよ」

「いいんだ。作るのが趣味で、食べるのは普通だから、いつもイベントがあると持て余すんだ。それに、色んな人から感想をもらえた方が喜ぶから」

 武蔵先輩にしては饒舌に話をした。話している最中も笑顔だったし、弟の話は初めて聞いたが、案外ブラコンなのかもしれない。

 間もなく神崎先輩がやってきたので、神崎先輩にもお礼は何がいいか聞くと、こちらはすぐにスケッチブックが欲しいと言った。「どんなんでもむっつんのセンスで選んでくれればええで」と言われ、それはそれで困ってしまった。

「はいこれ」

 悩んでいるところに、神崎先輩が勾玉付きのキーホルダーを掲げた。朝、渡していたものだ。

「ありがとうございます」

 反射的に礼を言ったが、出来栄えは一見しただけでも大したもので、美しい曲線を描き、表面も綺麗に磨かれた勾玉は別物のように輝いて見えた。お店で売っているものと遜色ないのではないだろうか?

「すごい、綺麗です!」

「頑張ってん。前に話してたやん? その勾玉がむっつんと9ちゃん助けてくれたって」

 どこから伝え聞いたのか、神崎先輩からコンビニの車衝突事件の現場にいたことを尋ねられたので、その時にこの勾玉のキーホルダーが落ちなければ気づかなかったと話したのだ。

「信賞必罰。功労者には褒美がないとなぁ」

 神崎先輩は笑顔でそういい、俺はこの、案外人好きな先輩が喜びそうなスケッチブックを探そうと思った。


水曜日の放課後、部室に使っている教室の前の廊下で、俺達一年は中間テストの結果を見せ合った。中にはもう2年がいたからだ。

水曜日は本来休みだが、中間テストで活動できなかった分、グラウンドで練習することになっていた。

 俺は思っていたよりよい成績だった。もともと勉強ができるほうではあるが、武蔵先輩からもらった過去のテスト問題で作った模擬問題のおかげでいい点が取れた。人面そう事件も無事に解決したので、集中力も落とさずに済んだ。皆が心配してくれて、先輩たちまで協力してくれたので、逆にモチベーションがあがったくらいだ。

 僅差で最も良い成績だったのが永良、社会以外はすべて80点を超えていた。満と夢前たちは平均点よりちょっと上、といったところだ。

 久は社会が28点の痛恨の赤点。決定打は解答欄を間違えたからだった。二列ある欄に答えを上下の順に書くものを左右の順に書いてしまったのだ。これでは最初と最後しか答えが合わない。永良も同じ解答欄間違いをしていたが、元の点数が違うので赤点には全く問題なかった。

「久、不味いんじゃない…? 今週末の地区大、スタメンなんだろ? どうするんだよ」

「——」

 久は黙って28点の社会のテストを見つめていた。

 そして永良も、同じように深刻な顔で78点の社会のテストを見ていた。

 

教室に入って、テスト結果をみせられた部長が叫ぶ。

「赤点?! お前なんでやねん! ちゃんと勉強もするようにいつもゆっとるやろが。30点もとれへんってどういうことやねん」

 一夜漬けの勉強方法に問題があるのは確かだが、解答欄誤りさえなければクリアできていたはずだ。俺は久の社会の点数が悪い理由に心当たりがあった。

 久の家で勉強の息抜きにバスケをしていた時、通りかかった同年代の少年が難癖をつけてきて1on1の勝負したのだが、それに久は負けたのだ。もちろん俺も負けたが。

 それから後の久の集中力はひどいもので、目を離すと手が止まっていた。それが社会だったのだ。

「地区大は9ちゃん抜きか——」

「それはきついで」

 芽室先輩の呟きに、阿恵先輩が慌てる。

「でも本人が出られなくてもええって思っとるからこその点数やろ。しょうがなくね?」

 芽室先輩の言に久もぐっと息を飲んだ。正論、である。

「——部長、すみませんでした。なんとか試合に出してもらえませんか?」

 珍しく丁寧に頭を下げて頼む久。

「決まりは決まりやからな…」

「赤点やったら、補講かなにかあるんとちゃうの? それに出席すれば——」

 副部長の阿恵先輩の提案は、

「地区大のあとなんです。ソレ」

 俺の説明であえなく打ち消された。

「追試する? 僕がテスト問題作ったるで」

 相変わらず部員のような顔をしてミーティングに参加していた神崎先輩が言った。

「ええんか?」

「ムロちゃんに問題作るより簡単やし。明日の放課後には解いてもらうから、目一杯頭に詰め込んどいてな」

久が試合メンバーから抜けるのはさすがに痛かったらしく、楠本部長も信念を少し曲げることにしたようだ。解答欄さえ間違っていなければ30点はとれていたはずだからの情状酌量もあるのだろう。部長は神崎先輩に問題作成を頼み、久は胸をなでおろした。

神崎先輩は俺に教科書と問題集を貸してくれと頼んできたので、もちろん快く承諾した。

バスケの練習は滞りなく進み、久は帰り道にめずらしく問題集とにらめっこしいていた。危ないし帰り道が同じなので、俺は盲導犬よろしく久の家まで付いて歩いて帰ったのだった。

しかし、家に帰りつくと、3日前から出ていた台風予報がこちらに進路を変えたと出ていた。かすめる程度なので、前回ほどの被害はでないだろうとは言っていたが、進路が変わったらどうなるかわからない。学校が休みになれば久が勉強する時間は増える。久がちゃんと覚えられるか心配だったので、天気が不良なのはむしろ神様の恵なのではないかとさえ思った。本当に久には頑張ってもらいたかった。

翌日はやはり警報が出た。しかし台風は深夜に通り過ぎていたので、警報も早くに解除された。学校は昼前から開始されたが、久の勉強時間が増えたことを俺は喜んだ。

「久、ちゃんと勉強した?」

 教室で出会いしなに聞くと、久はこくりと頷いた。それをどこまで信じていいかわからないが、結果は数時間後に出る。久の表情からも、真剣さを感じたので、期待してもいいだろう。


 放課後、久と神崎先輩、阿恵先輩が教室に残って社会の追試テストを行うことになった。神崎先輩は性格悪く追試を解いている後輩の姿のスケッチをし、阿恵先輩は一応カンニングしないか見張るそうだ。

 久の心配をしながらも、いつもどおりグラウンドで練習をしていると、外から見学をしている人影が見えた。どこかで見た背格好だと思っていると姿が消え、突然コートの中に入って来た。ドリブルしていたボールをとられる。あのテスト勉強していた日に文句をつけて割り込んできた少年だった。

「誰やお前?」

 不審者に、楠本部長が練習の手を止めて近づいてきた。

「俺は町原。大和中の3年や。

 お前らへたくそやなぁ。俺にコーチやらせろや」

大和中といえば新人戦の3回戦で負けた強豪校である。新人戦では優勝をしていた。しかしこんな生徒はいなかったはずだが。三年生か?

「何言っとるねんお前? そんなことできる訳ないやろ」

 楠本部長が至極真っ当なことを言う。

そこに追試を終えた3人がやってきた。町原と名乗った少年を目にした久が、普段あまり活躍しない表情筋を珍しくこわばらせた。

皆の練習の手が止まっている様子に、阿恵先輩が問う。

「どうしたん?」

「こいつがコーチさせろって言うねん」

「あれ? 和菓子屋の店番やん」

 闖入者を前にし、困惑顔で話す楠本部長に、神崎先輩が軽く答える。

芽室先輩が尋ねた。

「知り合いか?」

「隣駅の北の清風堂って店で、よく店番しとるんみるで」

 神崎先輩がよく見るのなら、武蔵先輩も見ていそうなものだが、武蔵先輩は今日は休みだった。

「なんやお前、バスケ部員やったんか、言ってくれりゃええのに」

 町原が神崎先輩に言った。

「何? 割引でもしてくれたん? そっちこそバスケ部やったんや」

 話し相手が神崎先輩に代わる。本来は部外者だが、交渉事は楠本部長よりも神崎先輩の方が向いていた。

「まあな、この間引退して暇やねん。ここで練習させてくれへんか? ストレス発散によ」

「自分の学校に行けば?」

「それが、出入り禁止くらっちまってよぉ」

「おとなしく受験勉強しろってことちゃうの。

とにかく、他校の生徒が自由勝手に出入りできる訳ないやん。諦めて近所のコートでシュート練習でもしときぃや」

 議論の余地もないほど論破され、町原はあきらめて帰っていった。引退したのなら試合で会うことはないだろう。

「久喜、追試はどうやったんや?」

 突然の闖入者で混乱したが、楠本部長が大事なことを聞いた。久が少し自慢げに答える。

「47点でした」

「そうか」

 部長はほっと胸をなでおろし、

「今回は解答欄ミスもあっての特例やから、次はないと思えよ」

と、厳しい言葉をかけた。久も肩を落としながら頷いている。

 とりあえず、地区大会はフルメンバーで出場できるようで、皆安堵した。


 しかし次の日、なんとあの町原という少年は遠江先生と教頭先生の許可証を持って体育館に現れた。

「許可証 町原圭 上記のものを男子バスケット部のコーチとして出入りさせることを許可する」と書いてある。

「な、なんでぇ?!」

 皆が驚くが、間違いなく公印のついた許可証である。

「この学校の茶華道部はうちのお得意さんなんやで。えんちゃんもうちの馴染みやしな。ここには正式なコーチもおらんみたいやし、丁度ええやろ」

 教頭先生からの正式な許可がでたなら、拒否する訳にはいかない。

 どんな指導をされるかと思っていたが、町原とやらは一日目は今までの練習状況を確認することにしたようで、練習予定表を見ながら各人の動きを確認し、時々質問する程度だった。

明日の地区大会のミーティングも行ったが、参加はしたもののアドバイスの一つもなかった。

しかしそれは、嵐の前の静けさだったと後で知ることになる。


翌日の地区大会は、一回戦で惜敗した。

メンバーは新人戦と同じく、楠本部長がPG、Cは阿恵先輩、芽室先輩がSF、武蔵先輩はSG。残る久がPFだ。

俺も武蔵先輩の代打で1Q参加したが、1ゴールも決められなかった。

町原が観戦に来ているかと思ったが、観客席に町原の姿はなかった。大和中のPFに町原の名前があったが、それは1年だった。

見てみると顔も町原とよく似ていたし、弟かもしれない。大和中は新人戦だけでなく、今回の地区大会でもすべての試合を勝ちあがって優勝していた。

町原が大きな態度を取るのも納得できたが、母校に出入り禁止になるのも納得だった。

うちの左右田中のように人数不足ならともかく、強豪校なら選手層も厚く人は余っているだろう。受験生が頻繁にやってくるのを顧問が黙ってみている訳がない。


日曜日も土曜に引き続き地区大会はあるが、神崎先輩一人が見学に行っただけで、昨日負けた我が左右田中は、通常通り練習することになった。町原も参加している。

「町原、昨日は応援に来てなかったよね?」

「あー、補講があってん、補講が。中間テストが赤点でさぁ」

 俺の質問に天を仰ぎながら答える。どうやら町原も久と同じタイプのようだ。

 町原は校務員室で、昨日神崎先輩が撮ったビデオを見た後、コートに戻って来てからポジション変更を言い渡した。

「今からポジション変更するぞ。

 部長はC、芽室はSG、阿恵はSF、久はそのままPF。PGは武蔵や」

 真っ先に不満を言ったのは部長だった。

「俺じゃPGは務まらへん言うんか?!」

「適材適所や」

 バスケ部は代々部長が4番で、コート上のリーダーと言われるPGも大体部長がやることに決まっていると満が教えてくれた。

昨日試合をした限りだと、楠本部長の指示に問題があるようには思えなかった。

しかし、とりあえず変更したポジションで練習を行ったら、傍目でもわかるぐらい全員の動きがスムーズになった。PGの武蔵先輩の対応が的確で早いのだ。それにゴール下の楠本部長のボールに対する執着心も、2年で一番身長の高い阿恵先輩よりも優れていた。

 今までなぜこのポジジョンじゃなかったのか不思議なぐらいだった。

 楠本部長は不服だが、結果が明らかにプラスにでているので、何も言わずに、でも何か言いたげにして、外の流しで頭をごしごし洗って頭を冷やしていた。楠本部長は不満を言葉にするのがあまり得意ではないのかもしれない。


「芽室先輩、勝負してください」

 帰りかけていた芽室先輩に、久が1on1の勝負を挑んだ。答えは一言だ。

「嫌じゃ」

「相手してやれや」

 楠本部長が芽室先輩に言う。

 芽室先輩は不満顔で一応相手をするが、明らかに手を抜いていて、すぐに負けていた。楠本部長がその手抜きぶりをみて再度注意する。

「正太、ちゃんと相手してやれや」

「いやじゃ。エネルギー切れかけとるのに、なんでタダで勝負せんなあかんねん」

「アンパンでもかけてやってやれば?」

「えー」

 神崎先輩が面白がって声をかけてくる。芽室先輩は不服そうにしていたが、基本楠本部長と神崎先輩の言葉には従う傾向があり、再度勝負して芽室先輩の勝ちだった。後ろに飛ぶフェイダウェイシュートで見事にゴールを決めた。帰りパンを買ってくれと久に言っている。

 点数をつけながら試合を見ていても思ったが、芽室先輩は技巧派だ。しかし、あまり積極的に点を取りに行こうとはしないし、疲れてくる後半は特にやる気がなくなるのが見てとれた。

 バスケ部に入ったのは、幼馴染の楠本部長に誘われたかららしいので、もともとバスケ自体に熱意がないのだろう。久とは真逆な感じだった。

 どう考えてもバスケ向きでない小柄の武蔵先輩は、神崎先輩の阿弥陀くじで入ったと言っていたし、いじめ組の3年が人に恵まれないと言っていたのは、嫌味ばかりだけではないのかもしれない。


「睦月、試合のスコア付けしてくれる? 部員は全員できるようにしとうねん。

 わからんかったら久に聞けばええから。よろしく頼むわ」

 部活が終わった教室で、阿恵先輩が新人戦と地区大会のスコアブックとビデオを渡してきた。ビデオは神崎先輩が撮ったものだ。

 特に期限もつけられなかったし、今日は日曜日なので、水曜日の部活が休みの日に久に付き合ってもらうことにした。


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