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「新たなる戦場」

 午後の部が始まる前に雷と豪雨が起き、本日は中止となった。

 カンソウは椅子に座り、未だ気を失ったままの弟子の様子を見ていた。

 足元には弟子の兜がある。ボコボコにへこんでいた。

 コロッセオ付きの医者の看たところ布鎧が通常よりも良い物であったらしく骨にまで以上は無いだろうとのことだ。ただし、複数個所を打撲しているのには変わりがない。少しの間、痛みに悩まされるだろうと言い残し医者は去って行った。

 轟雷が鳴り響き、稲妻がすぐに走る。格子状の窓から外の様子が見えるが、ここは内側雨の溜まりの揺らめく試合場と無人の観客席しか見えなかった。

 鈍色卿に情けがあったとすれば、ゲイルの兜は打ったが、顔までは打たなかったことだろう。あれほど追い詰めたというのにそれでも余裕があった。いや、追い詰めてなどいなかったのだ。

 しかし、ゲイルが午前を十連勝したのは事実である。彼がどう判断するかは分からないが、目標達成として午後に行くこともできる。

「負けたんだね、俺」

 カンソウは弟子を見た。ゲイルは目を開けていた。

「そうだな。だが、十連勝してみせた。どうする、午後へ行ってみるか?」

「勿論」

「よし、まずはケガを治せ」

「いや、それじゃあ、師匠が試合に出れないんじゃ」

「良いんだ。ケガを治せ。お前に休養と言うものを与えなかった俺が悪いが、休むことも大事だ。ただベッドで寝ていろとは言わん、散歩がてら友人達を訪ねてみるのも良いだろう」

「……うん」

 ゲイルは頷くと呻いた。ようやく自分がどれほど負傷したのか分かったらしい。

「鈍色卿の突きだけど、速かった」

「ああ、見た。見えなかったが。あれを追える者が今の闘技場にはいるとは思えんな」

「だろうね。でも、フレデリックなら?」

 弟子から出た意外な名前にカンソウは少し考えた。

「期待はしよう。午後は午後で激戦区だ。勝っては負けの繰り返し、それを乗り越え再び鈍色卿と戦えるか、まぁ、まずは一度剣を置け」

 ゲイルは呻きながら床に下りた。

「身体中が痛い」

「湯に浸かると良い」

 ふと、ゲイルが足元の自分の兜に目を止めた。

「買い替えだな」

「そうだね。明日、下取りして貰って兜を見て来るよ」

 ゲイルが言い、カンソウはふと、思い立った。

「ゲイル、鉄の鎧を着る気は無いか? 鉄の鎧ならば打撲まですることもない」

「それは俺の速さが通用しなくなってから決めるよ」

「分かった」

 二人は誰も居ない医務室を後にした。



 2



 ゲイルは居ない。兜を選ぶだけならもう帰って来ても良いが、しかし、カンソウには分かる。ゲイルは一人、予習しに行ったのだ。午後の部を観に。

 カンソウは藁人形を相手に競技用の剣を振り下ろし、鍛練に励んでいた。

 そこにヒルダとガザシーが訪ねて来た。

「カンソウ殿、午前の試合でお姿が見えませんでしたが、ゲイル君のケガが酷いのですか?」

「いや、ただの打撲だ。ケガの数は多いがな。今は暇を出している」

「そうでしたか」

 ヒルダが頷くと、珍しくガザシーが前に出て来た。

「それで、お前達の実力は分かったが、午前で荒稼ぎするか、午後で壁に打ちのめされるのか、どちらか選んだのか?」

 覆面を取り、右頬に刀傷があるが、強く綺麗な顔を見せて尋ねて来た。

「ゲイルと俺は午後へ行く」

 カンソウが言うと、ガザシーは頷いた。そして腰から短剣を一振り出して、カンソウに渡した。グラディウスと呼ばれる物であった。

「お前は知らないだろうがゲイルに約束をさせられた。午前を十連勝したら愛用している武器の一つを譲ると」

「良いのか?」

「短剣なら柄さえ握れば自在だ」

「いや、まぁ、その心配もあるが」

 カンソウは歯切れ悪く言った。

「ゲイルは貴女を愛している。直接愛している人から受け取った方がこの場合は良いのではないだろうか?」

「顔に似合わずロマンチストだな」

 ガザシーが言い、カンソウは照れ、ヒルダが微笑む。

「良い、師の手から渡してやれ」

「分かった、必ず」

 カンソウが答えるとヒルダとガザシーは背を向けた。が、二人は振り返った。

「カンソウ、お前達二人は先に午後の戦士を痛めつけてやれ。後で我らも必ず追いつく」

 ガザシーの強い瞳を受けてカンソウは頷いた。

「待っている」

 答えると、二人は去って行ったのであった。

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