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「ゲイル対ディアス」

 大男とそれに比べれば小柄に見えてしまう戦士がこちらへ歩んで来ている。

 デズーカと、ディアスであった。だが、変わったところがあった。ディアスの盾が小盾バックラーではなく、ヒーターシールドだったことだ。長い逆三角形のような形をし、バックラーよりも圧倒的に大きめだった。

 この若者もやるようになったのだな。

 カンソウは優男風のディアスを見て感心した。ということは、出るのはディアスだろう。

「よぉよぉ、カンソウ、ゲイル、勝ってるみたいだな?」

 少し間が抜けた様な雰囲気でデズーカが嬉しそうに声を掛けて来た。

「やぁ、デズーカさん。ディアスが相手か?」

 ゲイルが尋ねると、ディアスが微笑んで進み出た。

「お手柔らかに……とも、言ってはいらないような戦い方をしてみせます」

「よし、そう来なくちゃ」

 ディアスに力強い笑顔を返すとゲイルは位置へと戻って行く。カンソウらも所定の場所へと移動した。

 主審が選手二人を見る。

「第四試合、ゲイル対、挑戦者ディアス、始め!」

 ディアスが以前よりも大きな盾を左に、右手にブロードソードを握って前進してくる。

「受け流しに注意しろ、ゲイル。ディアスのカウンターは一級品だ」

「分かった」

 立て続けの連勝で気を良くし慢心しているのかとカンソウは思ったが、弟子はそんな様子も見せず短く生真面目に返事し、三歩進むと、一気に駆け出した。

「怒羅アアアッ!」

 ゲイルが剣を振り上げ猛進する。

 ディアスとの距離が縮まる。ゲイルはディアスの盾を割る気のようだ。色は塗られているが金属の枠組みに厚い木の板が貼られている盾だ。割れないことは無いが、そればかりを考えているようならば、カンソウも助言をしなければならない。

 振り下ろした剣は驚いたことに盾の金属製の縁で受け止められた。そこからサッとブロードソードの刃が、隠れていた蛇のように喰らい付いて来た。

 ゲイルは慌てて剣で受け、再び振るったが、ディアスは盾の外側の縁でまたもや受け止めた。木の部分では割られることをディアスも危惧しているのだろうか。あるいは、これこそが本当の盾の使い方なのだろうか。カンソウには盾の知識が無かった。

 ディアスの剣が再度襲い、ゲイルは攻めあぐねているようだった。どう戦えば良い? カンソウは盾を凝視しながら必死に知能を巡らせた。

「盾を蹴りで突き飛ばせ!」

「おう!」

 カンソウの声に応じるや、綺麗な回し蹴りをゲイルは盾の中央にぶつけた。ディアスがよろめく。頑丈な物ほど重いものだ。しかもそれを片手だけで操っている。圧倒する力には弱いだろう。

「怒羅アアッ!」

 ゲイルが追い打ちを仕掛ける。だがディアスは身体を右へ左へ、回し、盾と剣でよく防いだ。

 困ったものだ。決定打が無い。体力勝負にしても、残り七分である。引き分けに終わらせるわけにもいかない。勝たねば、ゲイルなら勝てるのだ。だが、助言に困る。どう攻めれば良いのか、広い盾を前にまるで手段が浮かんで来ないのだ。

 ゲイルが打ち込めば、盾の縁で防がれ、ディアスが素早く反撃してくる。

 ディアスは以前から相手の動きを待つ戦い方をしている。それはまるで変わらない。ディアスに餌を仕掛ければどうだろうか。ディアスから打って来させるのだ。

 こういう時に仕草や合言葉で考えが伝わればと思うが、そんなものは決めていない。

「ゲイル! ディアスは思った以上に強いぞ、一旦、下がれ!」

 カンソウは芝居を演じた。言った言葉は嘘八百というわけでもないが、ディアスを頭に乗らせる必要がある。そのためにはゲイルが消極的になってもらわねばならないが、弟子は気付くだろうか。

 ゲイルがディアスの反撃を避けて、少しよろめいた。

「貰った!」

 盾を跳ね上げ、剣を一刀両断にディアスは振り下ろした。だが、ゲイルはよろめいた体勢で、逆にディアスの懐に入ると、顔面に掌底をぶつけた。

「ぐっ!?」

「ディアス、しっかりしろ! ゲイルが来るぞ!」

 デズーカが声を上げる。

「くそっ!」

 ゲイルが剣を乱れ打つ、ディアスには二つの選択肢しかなかった。剣で相手をするか、盾に身を隠すか。だが、ディアスは勇敢にも前者を選んだ。

 不規則な鉄の旋律が響き渡り、その度に火花が見えた。

 剣ならば勝てる。少年とはいえ、ゲイルの筋力は鍛えに鍛えてある。片手だけで受け止められるものか!

 カンソウは手に汗握り、乱打の様を見詰めていた。

「ディアス、遠慮するな、盾を使え!」

 デズーカが助言する。

 ディアスも片手での不利を悟ったようで、盾を眼前に出した。その時だった。

「朧月イィィッ!」

 ゲイルが大音声し、渾身の突きを放った。

 盾は割れはしなかったが、ディアスの手から離れて、宙を舞い後方に落ちた。

「しまった!」

 ディアスが声を上げ、盾を一瞥し、迷いを見せた。そこをゲイルは見逃さなない。

「喰らえ、真月光!」

 跳躍し、頭上から振り下ろした渾身の一刀両断をディアスは慌てて両手で握った剣で受け止めたが、そこで膝が曲がる。ゲイルはローキックをディアスの膝頭に見舞って、転倒させた。

 立ち上がろうと素早く腰を上げたディアスの肩にトンと、刃が置かれた。

「勝者ゲイル!」

 会場がどよめく。

「ディアス、あんたも強かったぜ」

「ありがとう」

 ディアスはフッと笑って立ち上がった。

「ゲイル、大した膂力だ」

 デズーカがディアスの盾を拾って来て持ち主に渡すと言った。

「後は誰か有力な奴が残っていたかな。ま、当たってからのお楽しみだな。二人とも頑張れよ」

 デズーカとディアスが引き上げて行く。

 カンソウはその有力候補を知っていた。必ずゲイルの前に立ちはだかる午前十連突破の鬼門であった。カンソウはそのことを言おうとしたが、ゲイルの楽しみに水を注すようで止めて置いた。

 そうして新たな闘技戦士が挑戦者として現れ、ゲイルは破って行くのであった。

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