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「ゲイル対デ・フォレスト」

 次の相手が入場して来た。フォーブス、デ・フォレスト組であった。

「本当にお前が出るのか?」

「もう受付で処理したそう。相手が誰だろうが、俺は勝ちにゆくだけだ」

 フォーブスの問いに年若いデ・フォレストが応じる。そしてせっかくセットしていた七色の髪の上に兜を思い切り乗せ、惜しむ様子もなく捻じ込んだ。

「よぉ、小僧、調子に乗ってるとこ悪いが、勝たせて貰うぜ」

 デ・フォレストの挑発じみた言葉にゲイルは相手を見返すだけで黙っていた。その様子を見てデ・フォレストが面白くなさそうに舌打ちした。

「カンソウ」

「ああ」

 フォーブスに促され、カンソウは下がった。

 全員が位置に着いたことを確認し、主審が宣言する。

「第二回戦、ゲイル対、挑戦者デ・フォレスト始め!」

 デ・フォレストが猛進する。そして跳び蹴りを放った。

 ゲイルは横に回避し、背後に回ったデ・フォレストに斬り付けようとしたが、デ・フォレストはステップを踏みながら軽やかに後方に跳んで薙ぎ払いを避けると、彼にしては素早い踏み込みで、ゲイルに接近し、右拳を放った。

 ガントレットが鉄兜にぶつかり高らかに音を上げた。だが、これでは止まらない。デ・フォレストは下からアッパーを入れて、よろめくゲイルの側頭部にゲイルを回し蹴りぶつけた。

「良いぞ! デフォ!」

 フォーブスが声を上げる。

「ゲイル、しっかりしろ! どんな相手だろうと舐めるな!」

 カンソウは驚きながらゲイルを鼓舞する。実際、デ・フォレストの動きがここまで良くなるとは思わなかった。これも相棒のおかげなのかもしれない。

 カンソウはチラリとフォーブスを見た。フォーブスはデ・フォレストを檄している。負けてられず、カンソウも叱咤激励を叫んだ。

 デ・フォレストのタコ殴りは終わらない。剣を出さないのはゲイルを打ちのめしてから止めを刺す魂胆だろう。今のデ・フォレストは剣より拳の方が得意に見えた。

「く、くそおっ」

 ゲイルが倒れた。

「よっしゃー!」

 デ・フォレストが歓喜に吠えた。

「良いぞ、デフォ! 良くやった!」

 フォーブスが褒める隣でカンソウはゲイルを起こすべく声を掛けていた。

「ゲイル! しっかりしろ! ガザシーに良いところを見せたくないのか!?」

「無駄だ、カンソウのおっさん。手応えがありまくりだったからな。そのガキは一日おねんねだろうさ」

 デ・フォレストが勝ちを確信したように言った。

 カンソウは黙った。このまま立ち上がっても、蓄積したダメージが今後の連戦について回るのだ。このまま負けを認めさせ万全な態勢でまた……。

「何で……呼んでくれないんだ。……師匠?」

 ゲイルが呻き、ゆっくり立ち上がった。

 カウントは七で止まっていた。

「野郎、まだやる気か?」

「当たり前だ! チャンプを下すのはこの俺だ!」

 鼻血が滝のように滴り落ちる。額も切り傷が多く、血が溢れ出て顔に赤い筋を作り、顎先から滴り落ちていた。

「く、これで最後だ!」

 デ・フォレストが慌てた様子で、力を溜めた拳を放つ。ゲイルはそれを左手で受け止めると、捩じ上げた。

「ぐわああっ!?」

 デ・フォレストが悲鳴を上げる。

「落ち着けゲイル、折るなよ!」

「分かってる」

 ゲイルは手を放すとデ・フォレストの腹部に掌底を叩き込んだ。そしてローキックを膝頭にぶつけてよろめかせると、駆けて飛翔した。

「真月光!」

 カンソウはその呼び名を聴いて度肝を抜かれた。

 一刀両断がデ・フォレストの頭部に激突する。

 あまりの衝撃にデ・フォレストは倒れた。

「勝者、ゲイル!」

 歓声が沸く。

「どこで、その呼び名を……」

 カンソウが口にすると、血まみれの顔のゲイルが振り返った。

「忘れたのかい、俺達の真の目標は打倒フレデリックだろ。フレデリックの噂とかなら大概聴いてるつもりだよ」

 ゲイルがどこか冷徹に言ったようにカンソウは思った。

「仕方あるまい。頑張れよ、ゲイル、カンソウ」

 フォーブスが相棒を担ぎ上げて去って行った。

「審判、血を拭く行為は医療行為か?」

「止血せず、ただ拭くなら違反しない。そうするのならこちらも詳しく見させてもらうぞ」

 主審が近付いていた。

 カンソウは申し訳なさでいっぱいだった。俺は弟子の底力と執念と信念に気付けないばかりか、試合を諦めようとしていた。もし、あの時ゲイルが起き上がらなかったら、その後の彼は俺を二度と師と呼ばなくなっただろう。

 タオルが無く、紙があったので、カンソウはそれでゲイルの血を拭った。

 顔はある程度マシになったが、鼻の血は止まらなかった。

「悪かった、ゲイル。あの時俺は試合を諦めていた。お前を信じていなかった」

「もう良いよ、師匠。それより、汚れて読めないけど、これ手紙だったんじゃない? 良かったの?」

「あ」

 カンソウは心臓が凍り付いたかと思った。ゲイルの血を拭った紙はジェーンから返事であった。落ち着いてから読もうと思ったが、その機会を逃していた。

「あ、ああ、ただの観光案内だ」

「なら良いけど」

 ゲイルは既に次の相手が出て来るのを見据えていた。

 こうなれば、ジェーンに謝罪して直接返事を貰おう。

 気持ちを新たに目を向けると次の相手が歩んで来ているところであった。

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