表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/144

「フレデリックの躍進」

 カーラが大剣の中の大剣を掲げ上げる。女性だというのに凄まじい筋力に会場中が沸き上がった。

 フレデリックはバスタードソードのようであった。カーラの剣と比べると貧相な頼りない武器に見えてしまう。

 カーラが駆け、フレデリック目掛けて剣を振り下ろす。さすがに分が悪いと感じたらしくフレデリックはそれを避けるが、カーラの筋力は並大抵のもので無かった。すぐに剣を浮かせ薙ぎ払いで牽制する。フレデリックの剣を掠め、少しだけ鉄の音色が聴こえた。

「あれは、グレイググレイトだな」

 隣に座っていた老人が言った。カンソウは尋ねたつもりも無いが、老人はこちらを見て穏やかに微笑んでいた。

「何ですか、そのグレイググレイトとは?」

 グレイグは顎を意味する。そしてグレイグショート、グレイグバスタードとは竜乗り達の名誉ある武器である。

「昔に竜乗り達が、竜ごと敵を裂くために持っていた剣だよ。今では竜教も広まり、使い手もいなくなったと思ったが」

 老人は試合場へ目を戻した。もうこれ以上、語るつもりは無いらしい。

 竜ごと裂く剣だと。

 カーラは竜乗りなのだろうか。

 旋風の音が立て続けに轟いた。

 カーラが次々斬撃を見舞っているのだが、フレデリックがそれを避けているのだ。

 大地を穿ち、宙を切り、巨大な剣が乱舞する。

 フレデリックは消極的だ。カーラの体力と筋力が尽きるのを待つというのだろうか。カンソウは顔を向ける。

副審の指は七を示していた。

カーラはまだまだやれる。おそらく十分間、本気でいられるほどの根性があるだろう。フレデリックが何を考えているのか、いや、考えてはいないのかもしれない。ただ隙が出るのを窺っているのだろうか。

「豪重!」

 カーラが力を溜めた一撃を振り下ろした。

「月光!」

 フレデリックが声を上げた。

 両者の剣が今日初めて本当の意味で激突した。

 よりによって、敵の気合の一撃を受け止めるとは思わなかった。カンソウはフレデリックの剣が無事であることを願った。そして願いは通じた。両者は競り合いに入った。

 だが、この競り合いは面白いもので、互いに正面で剣を縦に振るい、幾度も幾度も競り合い、いや、力比べをしていた。剣の音は幾度も虚空に木霊した。

 ふと、フレデリックが力比べから抜け出し、脱兎の如く、カーラの背後に回り、胴を締め上げバックドロップを見舞った。

 フレデリックが離れると、観客は両者にそれぞれの声援を送り、主審がカウントに入った。

 カーラがカウント四で起き上がった。身体をふらつかせている。脳震盪を起こしているのだろうか。

 審判が試合を促す。

「このおおおっ!」

 カーラが咆哮を上げてフレデリックへ突進する。剣を横から薙ぎ払うべく構えながら疾走する。フレデリックも馳せた。

 カーラの薙ぎ払いをフレデリックは跳躍して避け、頭上から剣を振りかぶり、振り下した。

「真月光!」

 決まり手はまさにこれだろうと思ったが、カーラはあの重たい剣を制御し、惰性で動かず身を避けていた。

 フレデリックの渾身の一刀両断は地を割っていた。

 カーラの剣が再び横合いから来る。フレデリックは剣で受け止め、押そうとするが、今度はカーラが頑として譲らない。カーラの表情は見えないが、バックドロップを決められた時から、半ば怒っているようだった。

 セコンドのウォーとマルコがおそらく、残り時間が二分だということを伝えた。

 フレデリックはどう思うのだろうか。残り二分しかない。それとも残り二分もある。カンソウなら前者だ。焦る時間だ。

 有力候補の両者は離れ、それぞれ、剣を身体の横へ回すと一気に振りぬいた。

「豪重!」

「横月光!」

 凄まじい鉄の音色が会場を黙らせた。

 両者の剣は無事であった。ように見えたが、ポトリと二つの剣の刀身が地面に落ちた。

 引き分けか。

 観客達が深いため息を吐いた。

 選手の二人は向き合い、しばし見合って、各セコンドの方へと歩んで行った。

「両者、引き分け!」

 主審が声を上げた。

 カンソウはその声を聴き、本当は鈍色卿を誰かが引きずり出すことを見るつもりだったが、相打ちとはいえ、フレデリックがまさか、あのグレイググレイトという大剣の中の大剣を圧し折る膂力を身に着けていたとは恐れ入った。だが、その事実が、カンソウを燃え上がらせた。

「おや、もう良いのかい?」

 立ち上がると隣に座っていた老人が尋ねて来た。

「ああ」

 カンソウ自身も、高みを目指して鍛えたくなったのだ。

 カンソウはコロッセオを後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ