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「忘れていた男」

 午前の部は散々であった。

 新人ならば相手にならないが、ゲイルは六回戦でデズーカに敗北し、デズーカはドラグフォージーと時間切れで引き分けた。

 後は新人や無名な者達の勝ったり負けたり、退屈な試合が続き、結局チャンプが現れることなく午前の部は呆気なく幕を閉じた。

「帰って飯食って修練のやり直しだ。デズーカさんの膂力に勝てなきゃ先へ進めない」

 カンソウはその言葉に賛同しかけたが、午後がどうなっているのか知りたくなった。

「ゲイル、お前さえ良ければ午後の試合を見物しないか?」

 午後の戦士なら無名でも強敵である。カーラやウォーを除いても勝ち上がる戦士がいるかもしれない。

「そんなに他人が気になるかい?」

 カンソウは上手く答えられなかった。だが、鈍色卿を誰かが引きずり出すかもしれない。カンソウは鈍色卿と戦ったことはあるが、冷静になれば勝てない相手では無かった。と、判断を下している。

「俺はガザシーさんのところに行って来るよ」

 弟子は背を向けてとっとと行ってしまった。

 カンソウは別に鈍色卿が敗北するのを期待しているわけでは無い。いや、少しはそんな気持ちはあるが、そうなれば、より強い者がチャンプとなり更なる挑戦者の大きな壁となるだろう。

 そもそものところ、ルドルフが調子に乗り始め、町ではやりたい放題している。その所業を止めさせるため、誰かが鈍色卿を下さねばならない。

 そんな戦士が午後クラスに残っているだろうか、カンソウはそれを憂慮していた。

 一旦食事を取りに戻り、再度コロッセオへ戻って来る。観客達が列を作っていた。

 ふと、カンソウはジェーンからもらった手紙を取り出し、広げた。どちらの返事にしてもカンソウの心臓が大きく跳ね上がることになるのは知っている。手紙を開きながら目を背けていた。

「おい、あんた、前進んでるぜ」

 後ろに並んでいた男に言われ、カンソウは慌てて駆け出し、受付へと進んだ。

 観戦チケットを手に入れ、段になっている客席へと足を運ぶ。ようやく落ち着いてから、手紙を見ようとしたが、その前にさっそく試合が始まった。

 一回戦からウォー、カーラ組が出て来た。試合に出るのはカーラのようだった。

「姐さん! 優勝しちゃってくださーい!」

 年増とはいえ、熱心なカーラファン達が黄色い声援を送る。カンソウはカーラの武器を見て驚いた。何だ、あの鉄塊は。カーラの持つ剣は、刀身が斧のように膨れ上がった両手持ちの剣であった。刃引きされていなかったら人なぞ造作なく真っ二つにできるだろう。

 審判の宣言で試合が始まった。

 カーラは下段構えながらも縦横にその大剣を振るっていた。

 相手は成すすべなく追い詰められ、鎧を強かに打たれて敗北した。

 歓声の中、カンソウはカーラがチャンプである鈍色卿と戦うことになるだろうと予測していたが、次の瞬間、試合場に姿を見せたもう一組の有力候補がいたことをすっかり失念していた。

「フレデリック!」

 カンソウは思わず声を上げた。まるでカンソウの声が引き金になったようにフレデリックコールが一部から沸いた。カーラと並ぶ人気者となったフレデリックの姿を見てカンソウは胸が打たれた。

 ああ、そうだ。そうだった、お前が居たのだ、フレデリック!

 相棒のマルコがセコンドの位置に着くと、審判が声を上げた。

「第二試合、カーラ対、挑戦者フレデリック、始め!」

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