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「本命」

 セーデルク、ゲントの組が立ち去って少し待つと、堂々とルドルフが入場してきた。小悪党ながら髭を整え、新調したその身に余るであろう鈍色の鎧を身に着けていた。

「ハハハッ、カンソウ、また貴様か」

 ルドルフが大笑いし、自信あり気に振り返る。すぐ後ろから鉄の靴底で石畳を叩き、土を踏み締める音がして、同じく鈍色の鉄仮面と鎧兜に身を包んだ仮面騎士が現れた。

 仮面騎士は両手持ちの剣、カンソウと同じクレイモアーを帯びていた。

 ゲイルが進み出ると、ルドルフは更に笑った。

「これは傑作だ。前回の敗戦が堪えたかカンソウ? ガキを出すとは、情けない」

「俺はただのガキじゃない。あんたに用は無い。黙ってろよ」

 ゲイルが言うとルドルフは激昂し、口を開きかけたが、仮面騎士が裏拳でルドルフの胸を叩いたので、ルドルフは驚き、顔を青くして、下がって行った。

「ゲイル、ドラグフォージーでも引き分けに持って行けた。戦い方が上手ければお前は勝てる」

「勝つさ、師匠」

 カンソウはその言葉を聴いて下がった。

 審判が進み出る。

「では、第三試合、ゲイル対、挑戦者仮面騎士、始め!」

 時間はあるとは言えない。スピーディーに攻めていきたいところだ。何とかして仮面騎士の欠点を探さねば。

 カンソウの目の前で、両者の剣が激しい音色を上げた。

「ぐっ」

 ゲイルが呻く。分かる、痺れが走っているのだ。仮面騎士はデズーカ以上の膂力の持ち主なのだ。だが、驚くことが起きる。

「ぬう」

 仮面騎士が声を漏らしたのだ。

 これは、この戦いは、同等なのかもしれない。

「ゲイル、何もお前だけが苦しいわけじゃない、相手も同じだ!」

「おう!」

 ゲイルは離れて、剣を薙ぎ払って旋回し、近付いたが、当然、仮面騎士の剣に阻まれる。

 弟子はそのままスラディングしたが、仮面騎士の防御が固いせいか、速度が遅く、「竜閃」までは持っていけず、転がって間合いを取った。そこへ仮面騎士が躍り掛かった。黒いマントを空で広げ、大きなコウモリの如く、ゲイルに一刀をぶつけてきた。

 剣同士が激突し、刃が鳴る。その音は観客達をも感心させた。両者は剣を振るってはそれぞれの刃を打ち鳴らした。

「互角だと」

 ルドルフが瞠目する。そして声を上げた。

「先生! ガキ相手だからって手加減する必要は無いですよ!」

 手加減だと、馬鹿を言うな。ゲイルはまだ波に乗れては居ないが互角以上に渡り合っている。正直、弟子の打ち込みの速さを見てカンソウは驚いていた。だが、仮面騎士も決して譲ったわけでは無い。ゲイル以上に器用な操り方で、時には己のペースにゲイルを引き込んでいた。

「これでも喰らえ!」

 残光と共に放たれた十連以上の突きを、ゲイルは見事に捌き切った。仮面騎士が沈黙を守れぬほど、戦いに熱くなっているのがよく分かる。やはりルドルフは参加の数合わせなのだろう。

「怒羅アアッ!」

 ゲイルが剣を横に一閃し、仮面騎士との打ち合いは一旦終わりを見せた。

 仮面騎士もゲイルも荒い息を吐いていた。

「仮面騎士殿! しっかりしてくれ!」

 ルドルフが慌てて哀願するように情けない声を上げる。これがルドルフと言う男の本性だ。自分が弱いと分かった時には強い者の傍に寄って行き、器用に腰巾着に収まる。

 副審の手が片方下に下がった。ここまで半分だ。この試合を制した者はおそらく、次の戦いでは体力が追い付かないだろう。両者、これが今日の最後の戦いだ。

 だとすれば、デ・フォレストとゲントを事前に破ったゲイルの体力は明らかに仮面騎士をも上回る。初戦で両者が会えば間違い無くゲイルに軍配が上がっただろう。

 カンソウの弟子はまだ十四歳だ。末恐ろしいほどの伸びしろを持っているかもしれない。ゲイルはいつか、コロッセオを制するだろう。

「いくぜ、鎧野郎!」

 ゲイルが突っ走った。仮面騎士は動かない。剣を正面に掲げゲイルの一撃を窺おうとしている。

「そらあっ!」

 ゲイルが剣を大上段に構え、跳躍しようとする。が、跳ばなかった。仮面騎士は上空を刃で払っていた。明らかなフェイントが決まり、ゲイルは突いた。

 決定的な一撃を仮面騎士は身を捻って避け、ゲイル目掛けて剣を振り下ろす。

 ゲイルは仮面騎士の胴を蹴って、反動をつけると後方に逃れた。

 どこかでゲイルの名を叫ぶ声が聴こえた。

 弟子はサンダーボルトを破っているのだ。名が知れ渡ってもおかしくはない。

 その時、影を残して仮面騎士が駆けた。

 その電光石火の打ち合いは仮面騎士が横、ゲイルが縦で応戦していた。

 何て速さだ。相手もまだまだ戦えるということか。

 両者が再び離れ、互いに一気に間合いを詰め、剣を縦に振り上げた。その時、声が響いた。

「タイムオーバー!」

 審判の声であった。観客達がブーイングを飛ばした。カンソウも今の攻撃が勝敗を決するものだと思っていた。

「両者、失格とする!」

 審判の宣言を受けてもゲイルと仮面騎士は荒い呼吸を吐きながら互いに睨み合っていた。

「鈍色卿! ガキ相手に何て様ですか! 今日は賞金が入らないじゃないですか!」

 ルドルフが詰め寄ると、仮面騎士、いや、鈍色卿は黙って入り口へ向けて歩み始めた。その後をルドルフが非難の声を上げて追う。

「ゲイル、俺達も引き上げるぞ」

「……ああ」

「強くなったな」

 カンソウはそう言い自慢の弟子の肩を叩いて満足し自ら頷いていた。ゲイルは呼吸を引っ込め軽く微笑みかけてくれた。

 引き上げようとすると、ゲイルの名が一斉に呼ばれた。

 弟子は驚いたように会場を見回す。

「みんな、ありがとう! ありがとう!」

 ゲイルは剣を振って各方面に忙しなく応じながらカンソウと共に入り口へ入って行った。

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