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「ゲントの開花」

「見てたぜ」

 入場してきたのはセーデルクとゲントであった。仲良く鍛練し、武器まで選んだことなどセーデルクは覚えてはいまい。ゲイルも先ほどのデ・フォレストが本気で向かったことを知り手加減無用だと思っているはずだ。

 ゲントは厚い甲冑と鉄仮面の下で黙していた。

「ゲント、負けるなよ。七色頭の若造だって良いところまではいけたんだ。お前ならそれを越えられる。そういうように俺が鍛えたつもりだ」

 念を押し、気合を入れるようにゲントの甲冑を軽く叩くと、セーデルクは下がった。カンソウも続いた。カンソウはゲントを観察した。あの時選んだトマホークを得物としている。斧は破壊力は抜群だが、突く刃が無い。剣ではないゲントはどういう戦い方を見せるかそれは未知数であった。だが、カンソウは念のために己の知識を弟子に伝えた。

「ゲイル、ゲントの持っているトマホークは投擲も出来る武器だ」

「投擲ねぇ。ガザシーさんやヒルダ姉ちゃん程じゃあ無いだろうし、あれ一本きりで戦うみたいだし、投げては来ないんじゃないかな」

「他にも立派な斧はあったがゲントはそれを選ばなかった。どういうつもりか分からんぞ、油断するな!」

 デ・フォレストを破り頭に乗っているというよりも、戦いの興奮が冷めていないのであろう。デ・フォレストが予想以上に化けたので白熱する戦いとなったのは事実であった。

「では、第二試合、ゲイル対、挑戦者ゲント、始め!」

 ゲイルが駆けようとしたが前を向いた。カンソウも同じであった。ゲントが大地を揺らし猛進してくる。

「行けっゲント! 牛の角攻撃だ!」

 ゲントはトマホークを突き出す兜の更に前に潰れた刃を見せて突進してくる。

 ゲイルが対応しようとするのを見て、カンソウは叫んだ。

「躱せ! ゲイル! 吹っ飛ぶぞ!」

「こうすれば自滅するよ」

剣の切っ先を向けてゲイルは踏ん張った。

 ゲントもセーデルクもそのぐらい分かっている。

「良いから躱せ! 避けろ!」

 ゲントの重厚な身体がゲイルに激突した。

 カンソウは見た。ゲントが斧をずらし、ゲイルの向けた切っ先に合わせたのを。物凄い衝突音と共にゲイルは宙を舞い、そして離れたところへ落ちた。

「馬鹿者が! ゲイル! 起きているか!?」

 カンソウはルールの距離を保ちながらゲイルのもとへ駆け寄った。

「ああ、クソっと、頭がまだ揺れてるぜ」

 ゲイルが立ち上がる。あの突進を受けても剣は無事のようだった。

「師匠、わりぃ、油断した」

 そこへ空気を裂くような音が聴こえた。

「ゲイル!」

 それを見たカンソウは声を上げた。

「でえいっ!」

 ゲイルは剣で投擲されたトマホークを弾き返した。

 だが、トマホークは虚空へ勢いよく飛び、そしてまたゲイルへ向かって急降下してきた。

「何だ、また来るのか!?」

 まるでゲントがトマホークを操っているようだ。

 そこへ地鳴りが鳴り響き、ゲントが真っ直ぐ突進してきた。上と前の攻撃にゲイルはたまらず、後退した。トマホークは刃が潰れているというのに深々と大地を穿った。突進してきたゲントがそれを拾い上げ、跳躍した。まるで甲冑の重さが関係ないかのようなでたらめな跳躍力であった。

「激震!」

 セーデルクが叫んだ。

「受け止めてやるよ! 客に見せ場を与えて見せな!」

 ゲイルが剣を頭上へ向けて掲げて防御態勢を取った。

 鉄の音色が木霊した。

 だが、それだけで終わりではない。ゲイルは地に降り立ったゲントへ足払いを仕掛けようとしたがいくら引っ掛けても重量のあるゲントは転ぶ気配どころかよろめく様すら見せなかった。

 ゲントがトマホークから右手を放して拳を繰り出した。

 両手で剣を握っていたゲイルは慌てて掌底で応戦した。両者の腕はすれ違い、それぞれの顔を打ったが、鉄仮面のゲントよりも、バイザー無しのゲイルの方が圧倒的に不利だったが、弟子は器用に兜の側頭部を打たせた。それだけでも脳震盪を起こしたのであろう。ゲイルはよろめいて後退した。そこへゲントが右手を伸ばし、ゲイルの布鎧の襟首を掴むと軽々と持ち上げ、左手のトマホークを顔面目掛けて振るった。

 再び衝突音がする。先ほどのように武器ではなく拳で鎧を打たれた場合は何ともないが、武器となれば話は別だ。その場で勝者が決まってしまう。

 幸いゲイルはグレイトソードを向けてゲントのトマホークを受けた。

「あんまし、調子に乗んなよ!」

 ゲイルが足先でゲントの鉄仮面の正面を蹴りつけた。鉄製の靴であるレガースが激しい音を立てる。ゲイルは次々、デ・フォレストのように蹴りを続けた。

 激しい音色が会場を支配する。これが鉄の音だ。

「ゲント! そいつのどこでも良い、斧で叩け! そうすりゃ、お前の勝ちだ!」

 セーデルクがもっともなことを言う。その通りなのだ。ゲントはゲイルを持ち上げながら蹴りを受けてもビクともしない。ただゲイルの蹴りが鬱陶しいハチのようなのは確かだ。

「ゲイル! どうにか脱出しろ!」

「やらせるなゲント! さっさと!」

 その時、両足でゲントの顔面を蹴り、ゲイルが束縛から逃れた。

「行くぜ、ゲント! 怒羅アアアッ!」

 ゲイルが駆ける、ゲントが斧を振り下ろす。ゲイルはその斧を持った頑健な腕に飛び乗り剣を薙いだ。

 再び鉄の音色が轟いた。ゲイルの剣はゲントの側頭部を打ち鳴らしていた。

「勝者ゲイル!」

 その言葉を聴き、カンソウはまさかこの試合にこれほどまでに神経を擦り減らすとは思っておらず、深く安堵の息を吐いた。

「よっと」

 ゲイルがゲントの腕から下りる。

「強くなったな。斧を空で操ったのはどうやったんだ?」

 ゲイルが問うが、ゲントは相変わらず黙り込んでいた。そこへ相棒のセーデルクが歩んで来た。てっきりカンソウはセーデルクのやり過ぎる気性ならば怒髪天であろうかと思ったが、出たのは労いの言葉であった。

「ゲント、お前にしてはよくやった」

 セーデルクはゲントの肩を叩くと、こちらを見た。

「チャンスはあった。運がよかったな、カンソウ」

「確かにな」

 カンソウが頷くとセーデルクは鼻で笑い、ゲントと共に退場して行った。

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