「猛攻、デ・フォレスト」
「何だ、次の相手はお前達か」
毒々しく七色に染めた髪を兜に収めた若者、デ・フォレストが待っていた。少し離れたところにはフォーブスがいる。
「まぁ、良い、進化したデ・フォレスト様の攻めの流技を見せてやろう。勝負だ、カンソウ!」
「あ、いや、俺ではなく」
カンソウは決まり悪くそう言い、弟子が進み出る。
「あんたが俺に勝ったら嫌と言うほど懐いてやるよ」
ゲイルが自信ありげに言った。
「小僧が相手だと? おい、こりゃあ、どういう」
「デフォ。ゲイルはスパークを破っている。強いぞ」
フォーブスが声を掛けると、デ・フォレストが唸った。
「両者、位置に着いて」
審判が言い、選手二人は六メートルの幅を取った仕切り板へ、セコンドのカンソウらは相棒から二メートル以上距離を取ったところで足を止めた。
「カンソウ」
「何だ?」
「舐めるなよ」
フォーブスはそれだけ言うと相棒を見て黙していた。
「第二試合、デ・フォレスト対、挑戦者ゲイル、始め!」
両者の抜き身の剣が陽を受け輝く。
「おらああっ!」
「怒羅アアアッ!」
選手二人は一気に突撃した。
デ・フォレストの横薙ぎをゲイルは跳躍して背後に跳んで避けた。その身軽さに観客が声援を上げた。
「そらあっ!」
ゲイルが剣を突き出した瞬間、デ・フォレストは屈んで避け、そのまま倒れて足払いを仕掛けて来た。
ゲイルは寸前のところでステップして避けたが、デ・フォレストは素早く立ち上がり、回し蹴りをゲイルの側頭部に喰らわせた。
「ゲイル! 意識を保て!」
カンソウは足払いから始まったデ・フォレストの動きを見て少々寒気がした。成長しているのだ。この若者も。師はおそらくフォーブス。そのフォーブスを見ようとした時だった。
デ・フォレストが、左足で踏ん張り、右足で蹴りを連発してきた。ゲイルは慌てて避けた。デ・フォレストの足が盛んに陽光に煌めいたため、カンソウは訝しく思ったが、蹴りが終わったところで分かった。デ・フォレストは靴の上に騎兵用の足の防具を見に着けているのだ。それが銀に光っていたのだ。細かいところまでオシャレであった。
「怒羅アアッ!」
ゲイルが気合一刀、縦に剣を振り下ろすと、デ・フォレストもファルシオンを振りぬいた。刃こそ潰れているが、鉄の激しい音色と火花が見えた。
「そらあっ!」
そこで、デ・フォレストが驚いたことに競り合ったまま再び回し蹴りを放った。
ゲイルは籠手で受け止めたが、一瞬でも目を放したのが仇となった。デ・フォレストはゲイルの背後から組み付き、持ち上げ、バックドロップを仕掛けて見せた。
「良いぞ、デフォ! よくやった!」
フォーブスが叫んだ。
「ゲイル、まだ終わっていないぞ!」
カンソウの檄に弟子は応え、フラフラしながらも立ち上がった。
が、そこでデ・フォレストがステップし、勢いの飛んだ蹴りを放った。
それはゲイルの顔面に激突した。
「よし!」
昏倒するゲイルを見て、デ・フォレストとフォーブスの声が重なり合う。
審判がカウントに入る。
「ゲイル! 起きろ!」
カンソウが声を上げ、審判のカウントが続く。
「ゲイル! しっかりしろ!」
審判のカウントは無情にも続く。
確かにデ・フォレストは強くなった。だが、勝てない相手では無いし、勝つ相手だ。仮面騎士がなんだ、俺達の目標はチャンプになることだ。
「ゲイル! ガザシーが見ているぞ!」
カンソウはわざと嘘を叫んだ。
「七!」
審判がカウントしたとき、ゲイルが両手をついて立ち上がった。
「ガザシーさんの見ている前で格好悪いところは見せられねぇ」
「ファイ!」
審判が試合再開を叫び、いつの間に居たのか、副審が左手だけ全ての指を伸ばして立ってうろついていた。
「来いとは言わねぇ、行くぜ、デ・フォレスト!」
ゲイルは跳躍し、鉄の剣を振り下ろした。
だが、デ・フォレストは冷静だった。少しわきに避け、剣を躱すと、膝蹴りをゲイルの腹に叩き込んだ。
「ゴッ!?」
ゲイルが呻き、宙高く舞い上がり、そして土の上に倒れた。
「ゲイル!」
「よし、デフォ、二つ目のダウンだ」
審判がカウントに入る。
ゲイルは気を失ったらしく動かない。
副審の指が三つになっていた。
「生意気な小僧だったが、その生意気さに拍車を掛けてガッツはあったな。だが、もう売り切れらしいが」
デ・フォレストが倒れたゲイルに歩んで行き、見下ろす。
審判の声が五を数えた時だった。
ゲイルが起き上がった。
「ファイ!」
「怒羅アアッ!」
審判の掛け声とほぼ同時にゲイルは自分を見下ろしていたデ・フォレストの顎にガントレットで掌底をぶつけた。
「ガフッ!?」
今度はデ・フォレストが呻く番だった。
「デフォ!」
フォーブスが声を上げるが遅い、ゲイルはスライディングし、相手の後方に回り込んでいた。
「デフォ! 後ろだあっ!」
「竜閃!」
ゲイルが跳躍し、薙ぎ払いを放ち。鉄の剣と兜がぶつかり合い、強烈な音を上げ、デ・フォレストは倒れた。
「勝者、ゲイル!」
審判の宣言と共にカンソウは笑えない拍手を送っていた。デ・フォレストが用心していたらこんな展開にはならなかったはずだ。良いところで時間の都合により引き分けだっただろう。
「わりぃ、フォーブス」
「次がある。行くぞ」
フォーブスの肩を借りデ・フォレストが歩く、そして振り返った。
「次はカンソウ、お前が出て来いよ」
そうして二人は入り口へと消えて行った。




