「鉄の音」
町へ戻ると、方々から金属同士を打つ音が聴こえてきた。いや、町の通りでもさっそく鉄の武器を交え、修練と言うより、その感触を確かめるために新参、若手の闘技戦士達が剣をぶつけ合っていた。
「さて、今日を含めて五日か」
セーデルクが言った。
「その間に剣をものにしなくてはな」
フォーブスが言う。
一行は気持ちが逸って路上で鈍らになった剣を振り回し、手合わせる者達が治安警官に注意される様子を時折見ながら、カンソウとゲイルの泊る宿の裏へと来た。
町は活気づいている。カンソウはそう思った。刃は潰れたとはいえ、この腰に提げる鉄の重みが何とも言えない。そうして各々が新しい剣を抜いたところでカンソウもまた鉄の重みと輝きに感動していた。
各自素振りを始め、その手応えを噛み締める。
そして各々の相棒と刃は無いがそれでも刃を交えた。
甲高い鉄の衝突する音、何とも言えない、待ち望んでいた音色だ。
「木剣よりは重いけど、どうにかなりそうだよ」
ゲイルが言った。カンソウのお下がりのトゥーハンデッドソードも両手持ちの剣で重い。それを毎日振り回していたのだ、カンソウは弟子が自慢に思えた。
ゲイルと打ち合い、鉄同士の火花が散る様子を見て、カンソウはもっともっとそれを見たいと躍起になってゲイルと手合わせしていた。
ゲイルも力がついている。剣をぶつけ合っても退かない様子を見てそう思った。
一同は相手を変えて次々鉄の剣を打ち込んだ。ゲントだけはトマホークと言う斧だが、闘技場での木剣の類の中に斧は無かった。それを自ら選んできたのだ。ゲントは斧に精通しているのだろう。今までと違う評価になりそうだ。
剣ではやはりセーデルクが一番の膂力と技術を持っていた。セーデルクもまた今までの彼はどこに行ったのだろうと思えるほど、熱心に指導してくれていた。
そうして四日が経ち、カンソウとゲイルはコロッセオへと赴いた。
新ルール鉄製の刃引きした武器を使うことと、未だにコロッセオの入り口には貼り出されていた。
「さて、どちらが出ようか」
闘技戦士達が意気揚々と午前の受付に消えて行く中、カンソウはゲイルに尋ねた。
「俺が出るよ。このグレソならどこまでだって上って行けそうだ」
カンソウはその心意気を良しとし、ゲイルを出すことにした。
二人で受付を済ませ、案内嬢のジェーンに続いて控室へと導かれた。
「ゲイル君、格好が様になっているわね」
鉄兜をかぶり、各部位に防具を見に着けた弟子を見てジェーンが微笑んだ。
カンソウは木剣が収まっていた籠が無いことを確認していた。ジェーンがこちらを振り返る。
「二人とも無理はしないでね。みんな鉄の武器を手にして有頂天になっているから、せめてあなた達だけでも冷静でいてね」
「心得た」
「うん」
カンソウが頷く。ジェーンはカンソウを凝視していた。急に見詰められ、カンソウは内心泡を食った。ジェーンは綺麗だ。だが、俺に脈はあるだろうか。
扉が叩かれ、カンソウ達の出番が告げられた。
部屋を出て薄暗い回廊を行く。切れる方の剣は受付に預けてある。腰に提げられているのは競技用のクレイモアーだ。
回廊の向こうでまるで入場者を吸い込もうというような陽光が見えた。
カンソウとゲイルは土の大地に足を踏み入れたのであった。




