「それぞれの武器選び」
白亜の都、帝都は、町から北に十五分も歩かないうちに坂の上に姿を見せた。
商人や観光の者達が長蛇の列を作っているのだが、カンソウは正直、これに並ぶのは気が引けていた。ヒルダには悪いが時間が掛かり過ぎる。
三列に分かれていたがそれでも長いのだ。
「これの後かよ」
デ・フォレストが愚痴をこぼす。
「いいえ、皆さん、私達はこちらです」
ヒルダが先導する先には別の入り口があった。門番がヒルダに気付き、敬礼する。
「ご苦労様です。通していただいても構いませんか?」
「勿論です、どうぞ」
門番が退くと、ヒルダは礼を述べ、歩き始めた。カンソウらが逆にこれでは並んでいる者達の反感を買うことを恐れていると、ゲイルがさっさと駆けこんで行った。
「置いてくよ」
ヒルダと並んでゲイルが言った。
「特別扱いってのは好きじゃねぇが、まぁ、たまには良いだろう」
セーデルクが言い、カンソウらも帝都へ足を踏み入れた。
こんなに近いのに数えるほどしか帝都へ来たことは無かった。ここで寝泊まりしている闘技戦士もいるらしい。
建物や城壁は白一色であった。
「デフォ置いてくぞ」
フォーブスが言うと、デ・フォレストは我に返った様子であった。
「なぁ、何でこんなに白いんだ?」
「賢き白い竜、つまり神竜を称えているためです」
ヒルダが振り返って答えた。
「あの竜か」
セーデルクが言った。どうやら彼もカンソウと同じく、べリエル王国との戦いで白き竜とその奇跡を目撃したのであろう。神の竜は実在するのだ。噂では帝国自然公園の山脈で眠りに就いているとも言われている。
ヒルダとゲイル以外、帝都の上品な風景に気後れしていた。何故、ゲイルがここまで慣れ親しんでいるのか、カンソウは思い出す。左腕を治す旅に出た時に、ヒルダにゲイルを預けたのだ。
それから一行は思ったよりも長い城への道のりを、途中の丘陵沿いに立った質素な貴族街を抜けて、ようやく踏破した。
あまりにも長い道のりだったため、デ・フォレストが息を上げていた。カンソウもまた知られぬように器用に大きく呼吸を繰り返していた。
聳える城の前には門番が五人いた。
ヒルダが事情を話すと、訝し気にこちらを見ていた門番達が敬礼して道を開いた。
城の中へと一行は歩んで行った。
2
真っ赤で金の刺繡の入った絨毯。それしかカンソウの頭には残ってはいなかった。メイドや侍女、兵士に文官などがあちこちで現れては過ぎての繰り返しであった。白亜の城内は意外と忙しいようだ。
忍び込む仕事など一生無いので、城内の道順を正確に覚える必要も無かった。
だが、武器庫の管理人に許可を貰い、いざ、保管庫へ入ると、カンソウもそうだが他の者も度肝を抜かれていた。
理路整然と整った武器のその数の多さ、何たることか。
「これは凄いな」
「ああ」
フォーブスとセーデルクが感心していた。
「さぁ、いずれこの武器達も市井へ解放します。少しだけ急いで武器をお選びになられて下さい」
ヒルダが言い、その言葉に急かされて我に返ったカンソウらは慌てて武器庫の中を駆け回った。ゲイルはカンソウと共に目的の武器を探していた。
「師匠から貰った剣とは違う両手持ちの剣を探そうと思う」
「俺も自分の得物とは違うものを探そう」
途中、剣の棚の前でフォーブスがカッツバルケルを持って感触を確かめていた。
「喧嘩剣か」
フォーブスがしみじみとそう言うのが聴こえた。
そして師弟は両手持ちの剣の所へ来た。
ツヴァイハンダー、トゥーハンデッドソードらが見え、ゲイルはグレイトソード系列の剣を眺めていた。
セーデルクが目の前でツヴァイハンダーを手にし、軽く振り回して頷いた。
「これに決まりだ」
意気揚々とセーデルクは去って行った。
そういえば、ヒルダも急ぐように言っていたな。
カンソウはクレイモアーを手にし、セーデルクがやったように手に馴染み、身体との相性を確かめた。決まりだ。
ゲイルの方も、元祖とも言える昔からのグレイトソードという渋い武器を選びこちらに頷いて見せた。
師弟がヒルダのもとへ戻ると、全員が既に新しい相棒を手にして立っていた。
フォーブスは片手持ちの長剣カッツバルケル、デ・フォレストは分厚く幅のある片手持ちの剣ファルシオンを手にし、ゲントはトマホークを持っていた。カンソウはゲントの武器を見て、多様な武器がこれからコロッセオで見られることが楽しみに思えた。
「ヒルダ殿、そろそろ武器庫を闘技戦士に解放する準備に入ります」
番兵が声を掛けた。
「分かりました。皆さんの気に入った武器が見つかって何よりです。後はそれを鍛冶師に頼んで刃引きして貰って下さい」
「ヒルダ、助かった。ありがとう」
カンソウは顔見知りの代表として礼を述べた。
星の様に煌めく刃。これを潰すのは正直惜しまれたが、仕方が無い。
ヒルダの案内で武器庫を出ると、丁度、運搬の役目にあたるたくさんの兵士らとすれ違ったのであった。




