「医務室にて」
カンソウが医務室の扉を開くと、ゲイルの後ろ姿が見えた。その前に佇むのは大の大人四人である。
ヒルダ、ガザシー、デズーカ、ディアスである。
デズーカがこちらに目を向け、ゲイルが振り返った。
「師匠。師匠も、特別室に居た連中と同じ腰抜けなのかい?」
責めるような、あるいは嘆くような、いずれにせよ、敵対するような声をゲイルは上げた。
「悪かった、ゲイル。他の連中も目を覚ましたよ。強者と戦えるのが闘技戦士の喜びだ。よそ者、新参者、そんなことは関係ない。強い奴が頂点に立つ。それがコロッセオだった」
カンソウは思えば弟子に謝罪したのはこれが初めてのことかもしれない。それだけゲイルが人間的にも成長してきたのだろう。ここにいる、ヒルダ達にも少なからず影響を受けて大人への階段を上り、男としての格を磨いた。カンソウは弟子の成長に感動していた。
「うん」
ゲイルは満足げに頷いた。
こちらの四人の大人もゲイルの喝を受けたのだろうか。いや、ヒルダやデズーカに限って、強者だから団結しようなどという陰険なことはしないだろう。
「仮面騎士と手合わせしたのは俺と、ヒルダとデズーカ。奴を除け者にしようなどとは思ってはいないが、強さについてどう思った?」
カンソウが問うと、ヒルダが応じた。
「とても強かったです。今までの戦術に頼り切ってはいけないと痛感しました」
ディアスが頷き、ガザシーは黙っていた。
「デズーカは?」
「おう、カンソウ。俺もヒルダと同じ意見だ。いつぞやのスパークとかいう奴らの時も似た空気になったが、俺達は惜しいことをしたのかもしれない」
「惜しいこと?」
全員がデズーカに注目した。
「や、その、強者対強者の試合が観られたかもしれない」
「なるほど」
ディアスが頷いた。
「まぁ、あいつらもまた顔を出すだろう。さっきも言ったが、あの時は他流の戦士にコロッセオを乗っ取られるかもしれないと誰もが無意識の内に団結していた。観客を巻き込んでな。だが、そんな陰湿なのはもう止めにしよう。カンソウ、ゲイル、お前たちの言う通りだ。強い奴が覇者になる。それがコロッセオだ。鍛練して打ち合って力を付けて技を磨き、時には頭も使う。目標が出来る程、やりやすいことはない。俺が師匠のダンハロウに抱いた感想だ」
「ダンハロウか」
懐かしい名前で会った。シルクハットをかぶったべリエル王国の老剣士で、これがやたらに強く、目的のために午前の試合に居残り、壁となって多くの戦士を受け止め、去らせ、あるいは恨みを買った。
「ダンハロウ殿のような人間が居てくれた方が俺達も確かに良い刺激になる」
カンソウが言うと、ゲイルとガザシー以外が頷いた。
「他にも強い人が居たことがあったんだね」
ゲイルが感心したように言った。
「チャンプよりも身近な強敵の方が距離が近くて、師匠の言う通り良い刺激になるよ」
ゲイルが言うと、ガザシーが軽く笑った。
「まさか、子供に心根を入れ替えられるとは思わなかった」
「今は子供だけど、大人になったら結婚してね」
ゲイルが言うとガザシーは愉快そうにかぶりを振った。
「ならば、やることは一つですね」
ディアスが声を上げた。
一同は頷いた。ガザシーもである。
「明日に備え、鍛練あるのみ!」
全員の声が言葉が奇跡的に重なったのであった。




